企業セキュリティの歩き方

セキュリティ人材論--人手不足でもリストラを行う不思議な日本

武田一城

2018-06-13 06:00

 本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。

3大メガバンクがまさかのリストラ策

 セキュリティ人材に限らず、さまざまな業種で人材不足感が広がる中、名だたる大企業がリストラ策の実施を発表している。その中でも最もインパクトがあったのは、3大メガバンクをはじめとする大手フィナンシャルグループ(以下FG)が2017年末に発表した大リストラ策だろう。具体的には、みずほFGが1万9000人、三菱UFJ FGが9500人、三井住友FGが4000人の合計3万2500人にも及ぶ大きな変革だ。

 この理由は、マイナス金利政策による住宅ローンや企業向け融資などの利ざやの縮小のほか、IT導入による業務効率化などもあるが、この報道で新聞などを賑わしたのは銀行業全体の構造不況だ。その内容を要約すると、日本経済は高度経済成長やバブル期を過ぎて投資などの資金を必要としなくなり、民間から資金を集めて大企業に融資するという、これまでのメガバンクのビジネスモデルが終息に向かっている――ということらしい。

 戦後日本の経済発展の中で大きく成長した企業群の裏には、資金調達などの役割を担う銀行の存在があった。この両者は発展の両輪であり表裏一体と言ってもいいだろう。その片輪であるメガバンクがこのような変革に及ぶというのは、日本そのものが大規模な変革を必要とする時期に来たことを示していると言ってよく、企業のほとんどは多かれ少なかれこの影響を受けることになるだろう。

製造業やIT業界のリストラ策

 その動きは既に始まっている。グローバル経済の影響を受けやすい製造業なども例外ではなく、よりドラスティックな変革を始めている企業の中にはメガバンクに匹敵する大規模なリストラ策を発表しているところがいくつもある。

 例えば、米Xeroxとの経営統合ともに国内外の生産拠点の統合や1万人規模の削減を発表している富士ゼロックスだ。この動きも市場環境の変化に対応した構造改革と言ってよい。従来の複合機などの紙媒体(ドキュメント)を中心としたビジネス構造は、プロジェクタやディスプレイ、タブレット端末が普及したこともあって限界に達したのだろう。“ペーパーレス”が叫ばれてから随分と時間がたつが、読者の皆さんの周辺もいよいよ実現され始めているのではないだろうか。現状で年間の営業利益が約1300億円もあることからすると大胆過ぎる気もするが、資金的な余力がなくなってからの大きな変革は難しいと考えると、ちょうど良いタイミングだったのかもしれない。

 さらに、IT業界でもNECが国内で3000人規模の削減と工場閉鎖や希望退職を募るなどのリストラ策を発表している。これまで挙げた例に比べると小規模に見えるが、実はこれも大きな変革の必要性に迫られてのことだと言える。同社は、21世紀になってから既に3度のリストラを行い、その人員削減規模は合計で1万1300人に達している。その影響は決して小さくはないだろう。

 この他にも、シャープや東芝の経営不振や債務超過などの文字が新聞をにぎわせたことは記憶に新しい。複数の企業が相次いでこのような意思決定をしなければならなかったことは、IT業界を含めて従来の日本企業のビジネスモデル自体が非常に厳しい状況に直面していることを示していると言えよう。

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