ハイパーコンバージドインフラ(HCI)市場を切り開いてきた米Nutanixが、順調にビジネスを伸ばしている。筆者が注目するのは、同社の躍進が企業システムのありようにおいて、どのような意味を持つのか、だ。同社の日本法人ニュータニックス・ジャパンでコーポレートマネージングディレクター兼社長を務める町田栄作氏にその疑問をぶつけてみた。
Nutanixが躍進を遂げ続けている理由
「多くのお客様にご愛顧いただけているという手応えを強く感じている」――。ニュータニックス・ジャパンが先頃開いた新製品の記者説明会で、町田氏はこう力を込めた。(関連記事1)
2009年に設立したNutanixは、HCI分野の草分けとして2011年にアプライアンスを商品化し、今ではソフトウェア会社としてHCIの基盤ソフト「Enterprise Cloud OS」を中心としたビジネスを展開している。町田氏によると、設立以来これまで順調な成長を続け、現在の同社製品の顧客数は世界145カ国で1万社に及ぶ。ちなみに1年前は6200社だったというから、この1年で顧客数が大幅に増加したことになる。
なぜ、Nutanixは躍進を遂げ続けているのか。それは、「企業にとってITインフラの存在を意識することなく、アプリケーションやサービス対応に集中できる利便性の高いIT環境を提供するという当社のモットーがお客様に受け入れられている」(町田氏)からだという。
Gartnerが2018年版として初めて公表したHCI分野の「マジック・クアドラント(MQ)」でもトップリーダーの地位を獲得。これについては、「これまでつくってきたHCI市場をこれからもっと拡大していかなければいけないのが当社の立場」(同)との見解を示した。MQの横に「Nutanixの強み」が列記されているが、これらを一言で表せば、町田氏が先述した「高い利便性」ということだ。
Gartnerが公表したHCI分野の2018年版「マジック・クアドラント」(出典:ニュータニックス・ジャパンの会見)
その利便性を実現している重要なキーワードが、基盤ソフトとしてハードウェアやハイパーバイザーに依存することなく利用できるという「選択肢」である。
Enterprise Cloud OSが稼働するハードウェアとしては、IBM、Dell、Lenovo、Cisco、HPEなどのHCIシステムがあり、プライベートクラウドを含めたオンプレミス環境だけでなく、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azureといったパブリッククラウドサービスとも連携させたハイブリッドクラウド環境の基盤ソフトになり得ることを売り物にしている。
Enterprise Cloud OSがもたらす選択肢(出典:ニュータニックス・ジャパンの会見)
従来の3層構造システムの刷新が最大の課題
こうしたNutanixの躍進ぶりは、クラウド時代を迎えた企業システムのありようにおいて、どのような意味を持つのか。筆者が注目するのはこの点だ。そこで、町田氏に単独取材する機会を得たので、その疑問をぶつけてみた。すると、同氏はまず、こう話し始めた。
「当社は企業のワークロードについて、予測可能なものが75%、予測不可能なものが25%と捉えている。予測可能なものは自分たちできちんとガバナンスできるオンプレミス環境を、予測不可能なものは柔軟性のあるパブリッククラウドを利用するのが有効だと考える。そうなると、企業にとって望ましいのは、オンプレミスとしてシステムの利便性を追求しながら、パブリッククラウドともシームレスな利用環境があることだ。それを実現するのが、Enterprise Cloud OSである」
この町田氏の発言には2つのポイントがある。企業にとって望ましいものとして挙げた「システムの利便性」と「パブリッククラウドとのシームレスな利用環境」だ。この2つのポイントにNutanixの真骨頂があると、筆者は見る。
システムの利便性について、同氏が挙げたキーワードは「リプラットフォーム」、すなわち、プラットフォームの再定義だ。どういうことか。「企業システムのプラットフォームはこれまで長年にわたって、サーバ、ストレージ、ネットワークの3層構造をもとに開発・運用され、5年をめどに更改を行ってきた。その開発・運用に多くの要員を割き、更改ではプラットフォームを総入れ替えすることもあった。そうした3層構造の無駄を一掃したのが、Enterprise Cloud OSをベースとしたHCIだ」と同氏は説明した。
ニュータニックス・ジャパンの町田栄作コーポレートマネージングディレクター兼社長
Enterprise Cloud OSベースのHCIシステムは、サーバ、ストレージ、ネットワークの機能を統合管理できるとともに、これまでの3層構造と違ってクラウドと同様にウェブスケールアーキテクチャを採用したクラウドネイティブな利用環境を実現している。
そして、そのことがもう1つのポイントであるパブリッククラウドとのシームレスな利用環境にもつながっている。NutanixのEnterprise Cloud OSは、まさしくハイブリッドクラウド環境の中核技術として着々と地歩を固めつつあるといえる。
ただ、町田氏は自らにこう言い聞かせているという。「とはいえ、NutanixもHCIも歴史は浅く、現在も企業システムは3層構造のプラットフォームが中心だ。この状況を何とか変えていかないと、日本企業のIT環境はいつまで経っても刷新されない」。その意味では、ハイブリッドクラウド環境の実現もリプラットフォームに向けた手段なのかもしれない。このリプラットフォームこそが、ニュータニックス・ジャパンにとっても使命となっているようだ。
最後にもう1つ、敢えて聞きたいことがあった。それはもし将来的に、企業システムの大半がハイブリッドクラウドではなくパブリッククラウドに移行した場合、Nutanixは時代の寵児になり得るどころか、“あだ花”に終わってしまうのではないか。そう単刀直入に聞いたところ、町田氏は一瞬厳しい表情を見せながら、おもむろにこう答えた。
「全ては私たちが提供する価値をお客様に認めていただき、利用し続けていただけるかどうかにかかっている。どのようなIT環境であれ、お客様から最も求められるのは利便性。ハイブリッドやパブリックというより、私たちが提供したいのはOSの名の通り、利便性の高いエンタープライズクラウドだ」
果たして、Nutanixは時代の寵児になれるか。まさしくこれからが正念場となりそうだ。