デジタル失敗学

壁紙変更だけで深刻なトラブル--マニュアルにおける失敗“あるある”

萩原栄幸

2018-08-13 06:00

 本連載「デジタル“失敗学”」では、金融分野のテクノロジや情報セキュリティの現場を渡り歩き続ける萩原栄幸氏が、日本企業が取り組むべき“デジタル変革”を失敗させないためのヒントを紹介します。

「壁紙を変えただけ」

 今回は、この連載の初回でも取り上げた銀行在職中の話です。第3次オンラインの開発が終了し、私はIBMと共同で設立した会社の営業マンと一緒に全国行脚し、第3次オンラインをはじめとした各種システムの販売に出ていました。

 システムの専門家、それも、できるなら実際に開発した人間が営業に同行することで、先方も深く質問をすることができる――それが全国行脚の狙いでした。訪問先は、資金証券部や支店統括部のようなユーザー部門がメインの金融機関や、システム部のような開発がメインで対応しているところに分かれていたと思います。ある日、そのシステム部の課長級の方々と面談をしていた際、急にある人のところに連絡があり、支店の端末が動かないという問題を聞きました。

 面談は急に途中で打ち切られ、該当の課長がトラブルの出た支店で対応するためタクシーを呼びました。その際、私に「一緒に見学しないか?」というとても“魅力的な”話をされたのです。たぶん一緒に作業して私の実力を図ろうという意図があったようです。地方の金融機関の現場を見学できるというのはとても良いチャンスなので、私は当然、同行しました。

 その支店は中規模で、たぶん行員は20人強、他にパートや警備員などの方々がいました。その中のテラー(窓口業務)の1人の端末でメインの業務システムが動きません。タクシーで訪れたシステム部の課長のAさん、支店のOA管理者のBさんとその直属の上司のCさん、支店長のDさんが、それぞれにさまざまな操作をしましたが、システムが起動しませんでした。

 PCを再インストールすればたぶん動くはず、と皆が考えました。すると、細かな設定やパッチなどを慎重に当てていく必要があるとのことで、それは最後の手段――というのが支店での運用方法だと分かってきました。そこで「萩原さん、うちの環境は初めてなのは承知しておりますが、なんとかならないでしょうか?」とAさんが聞いてきたのです。

 隣の席のPCは正常に稼働していたので、それを参考にネットワークの設定や業務システムの挙動などを調査しましたが正常そのものでした。でも動かないということは、結局そのPCと他のPCの相違部分について致命的エラーがあるか、もしくは外部の影響ならネットワーク系に原因があるはずでした。しかし、接続などは監視システムや他のツールからも全く異常な部分が見つからず、恐らくPC内部に原因があるしか考えられないということに絞りました。

 システム系のファイルの異常と考えるのが最も自然だと考え、その金融機関のシステムを全く知らなかったので、数千以上あるシステム系ファイルの最終更新日のコンペアを隣のPCと比較していきました。すると、DLLファイルの1つが変わっていたのです。しかもその日付は、昨日の午後7時ころでした。そこで、その端末を動かしている女性のXさんを会議室に呼んでこう切り出しました。

「昨日の午後7時ごろに、このPCで何かしませんでしたか? 責めているわけではなく、事実を知りたいのです。いかがですか?」

 すると、Xさんは次のように説明しました。

「帰る前に、雑誌の付録のCR-ROMからお気に入りの壁紙をインストールしただけです。15分ほど楽しんでからそのファイルを削除しました。壁紙は、使ってはいけないアプリではないですよね? しかもアンインストールをしているので影響はないと思いましたが、ダメなんですか?」

 当時は、今よりも金融機関の営業店のPCについては、“ユルユルな”運用形態が一般的でした。しかも、Xさんは管理者でもありましたので、いわゆる管理者権限を持っていました。これは実話なのです。

 早速、私はマイクロソフトに問い合わせました。しかし回答は、「そのDLLにおける運用責任は利用者側にあり、影響については当方でも不明である」というものでした。とにかく、そのDLLファイルだけを壁紙がインストールされる前の状態に戻し、業務システムを起動したところ見事に起動しました。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]