ゼロ情シスへの道筋
情報システムの専任者が一人もいないという「ゼロ情シス」。最近いろいろなところで耳にするようになりました。「ゼロ情シス」という表現自体が刺激的かつ直接的であるため、その実態を不安視する声も多く聞かれます。
中小企業などでは、そもそもIT担当者が存在せず、経営者らがITの企画から運用までを仕切っているケースも少なくありません。以前は専任の担当者がいたが、退職などでいなくなってしまったという場合もあります。
ゼロ情シスに向けての道筋はいくつかあります。今回は、割とうまくいっているケースを紹介します。
これは、ある人のエピソードです。もともと、ひとり情シスだったこの人は、社内のITの全てを管理しており、業務に追われる日々を送っていました。前任担当者の突然の退職により、業務のマニュアルやルールが文書化されておらず、システムがブラックボックス化していました。それを、徹夜に近い状態を繰り返しながら手探りで解析し、システムの全容を明らかにしました。
それまでバラバラだった利用環境を標準化し、管理工数を減らすことで、コスト削減の効果も出てくるようになりました。さらに管理性を向上させるため、経営層に投資を提案し、標準技術を用いたシステムに刷新。さらなる運用負荷の低減に成功しました。また、社長の後押しを受けて、IT統制の強化も実現した。こうして、ひとり情シスとしての業務を軽減させていきました。
ひとり情シス、データオフィサーになる
ITがビジネスの役に立つ機会が増えてくると、担当者のモチベーションも上がり、さまざまなことに挑戦するようになりました。例えば、見よう見まねでデータマイニングにチャレンジし、顧客管理に有用なデータを作って営業部長に喜ばれました。
そうなると、周囲もだんだんと協力的になり、これまで集めにくかったデータもタイムリーに提供してもらえるようになりました。そうこうしていると、社内のどこにどういったデータがあるのか把握できるようになり、知らず知らずのうちにデータオフィサーのようなポジションになっていました。今では経営者からの期待も大きいようです。
米国では、最高データ責任者(Chief Data Officer:CDO)を設置する企業が増えています。CDOとは、端的に言えば「企業が保有するデータの統制と収益化に責任を持つ執行役」です。最高経営責任者(CEO)などの直属となることが多いようです。
今回のケースでは、正式にCDOを名乗っているわけではありませんが、社内のデータ管理を専門とする“データスチュワード”の役割を十分に担っているといえるでしょう。
当初はIT領域が7割、データ領域が3割の業務配分でした。それが徐々に変化して、今では業務の7割をデータ管理が占めるようになりました。今もなおIT業務を兼任していますが、全社を挙げての教育のおかげで事業部門や管理部門のITリテラシーが向上し、サポートの手間や運用の負荷が軽減されました。
その結果、「将来は経営に近いところで働いてみたい」という本人の希望に向かって確実に歩みだすことができました。そして肩書も、「管理部 情報システム担当」から「管理部 係長」へと変更となり、「データオフィサーを目指します」と自信を持って話します。「情シス担当」という呼称を止め、その役割を発展的に解消したということです。
ただ、IT関連で何かあると今でも現場に駆り出され、夜中も帰れなくなるそうです。そのようなことを笑いながら話してくれます。将来を見据えて、仕事にやりがいを見出している姿は、とてもすがすがしく感じます。
- 清水博(しみず・ひろし)
- デル 執行役員 広域営業統括本部長
- 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のディレクターを歴任する。
2015年にデルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在従業員100~1000人までの大企業・中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。