急激に増加する「ゼロ情シス」
情報システムの専任者が一人もいないという、いわゆる「ゼロ情シス」の企業が急激に増えています。従業員数が100~1000人の企業層を対象にした調査でも、2016年から2017年にかけて「ひとり情シス」の割合が13%から14%に微増、「ゼロ情シス」が14%から17%へと増加しています。
これまでも総務や経理などの他部門が兼任しているケースがありました。ゼロ情シスとはその段階を通り越して、情報システム担当者を置かないで社内のITを運用管理しようという動きです。
システム運用の変化
企業のITをゼロ情シスで運営するには、特殊技術を使わずに独自開発を控え、手間要らずのシステムを利用するなどの工夫が必要です。また、意外と煩雑で時間を取られるPCやネットワークの管理については、アウトソーシングサービスを使うことで業務負荷を徹底的に軽減しようという考えもあります。
さらに、担当者が不在でも業務に支障が出ないよう、運用に関する情報やノウハウの蓄積・共有も重要です。例えば、業務の属人化を排除するため社内マニュアルを整備し、社内イントラで情報共有するなどして、オープンな環境を構築するケースも増えています。
このような経営方針でシステムを運用していくと、ゼロ情シスでも十分にITを活用していけるのではないかという気になってきます。しかも、人工知能(AI)をはじめとする技術を用いて業務効率を向上する「デジタル変革」も後押しとなり、ますますゼロ情シス体制の現実味が増していくと考えられます。
ひとり情シスが存在する意味
しかし、ひとり情シスの担当者に話しを聞いてみると、ゼロ情シス化への道は言うほど簡単ではありません。これは自己保身から来る意見ではなく、どうしても克服することができない難点があるようです。一方で、「社内システムのことが分かる人がいなくなると困るのではないか」という指摘に対しては、ITのことが多少分かっている人がいればどうにかなると話します。
それでは何が難点かといえば、それはとてもアナログ的なことです。例えば、情報セキュリティの重要性を分かってもらえるよう何度も社員に説明し、対応が遅れている部門には改善を促すなど、非常に多くの労力と時間を費やしています。
ユーザー部門からすると、とても面倒なセキュリティへの対応は後手に回りがちです。そのため、幾度にもわたってエンドユーザーを説得し、口が酸っぱくなるほどい聞かせなければなりません。これには閉口する人も多いです。
しかし、実はこうした地道な活動こそが、エンドユーザーや組織全体のセキュリティに対する意識の醸成につながっているわけです。多くのひとり情シス担当者が、最も大変な仕事として「エンドユーザーへのセキュリティ啓発活動」を挙げます。ゼロ情シスを目指すには、ユーザー部門のITリテラシーや管理状態を勘案する必要があります。
- 清水博(しみず・ひろし)
- 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のディレクターを歴任する。
2015年にデルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在従業員100~1000人までの大企業・中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。