2020年ごろから第5世代移動体通信システム(5G)による商用サービスが世界各地で開始され、ネットワークサービスが新たな段階を迎える。その世界はどのようになるのか。Nokia Softwareでアジア太平洋日本地域のバイスプレジデントを務めるVishal Singh氏に聞いた。
Nokia Software アジア太平洋日本地域バイスプレジデントのVishal Singh氏
かつてのNokiaは、スマートフォンの有力メーカーだったが、2016年の旧Alcatel-Lucentの買収を経て、現在では通信インフラのソリューションを提供する企業に様変わりしている。ソフトウェア部門は2017年に発足し、2018年からNokia Softwareとして事業を展開。2017年の売上高は15億5000万ユーロで、Nokia全体の約3割を占める成長部門になっているという。
5Gによる通信サービスは大容量・低遅延・高密度を特徴に、これまでの3Gや現行の4Gよりもはるかに優れたユーザー体験の提供を可能にすると、Singh氏は話す。「例えば、SNSではよりリッチなコミュニケーションを実現し、スポーツ観戦ではリアルタイムデータを活用してプレーヤーのダイナミックな動きを体感できるコンテンツを提供する。サービスの高度化はプロバイダーの収益化にも大きく貢献する」
こうした利用シーンは、現在の4Gネットワークでも段階的には実現されてきた。しかし、そのためにはサービスの企画、開発から通信インフラにおけるデプロイに至るまで長い時間を要しており、すぐに可能となるものではなかった。通信に求められるサービスレベルに即したネットワークの設計や帯域確保、制御などの部分でも、多くの作業を必要とする。Singh氏によれば、Nokia Softwareはマルチベンダーに対応するITと通信を融合させたソリューションをワンストップで提供する点に強みがあると説明する。
5Gによる“デジタルビジネス”では、プロバイダーには「市場への迅速な展開」「需要に即したリソースの確保」「セキュリティ」が求められるとし、通信の高信頼性とITの俊敏性を融合させたアプローチが重要になるという。同社では「Closed Loop Automation」をコンセプトに、仮想化やソフトウェア定義(SDx)、機械学習といった技術によるソリューションを展開している。
「Closed Loop Automation」アーキテクチャのイメージ
「5Gのインフラでは、“スライシング”によって、サービスニーズに基づくコンピューティングリソースの配備やVNF(ネットワーク機能仮想化)などを活用したネットワークの構成、帯域、制御、可用性などをダイナミックに提供できるようになる。従来の人手を介した作業がソフトウェアによって自動化されており、通信品質と俊敏性、コストの低廉化が可能になる」(Singh氏)
同時にセキュリティ面では、膨大なトラフィックデータのリアルタイムな監視、分析と、同社のセキュリティインテリジェンスを組み合わせることで、安定したネットワークサービスに影響を与えかねない脅威の検知や防御、被害の阻止といった対策を可能にしている。「デジタル社会においてセキュリティは最も重要であり、サービスを妨害するような有害なトラフィックの遮断あるいは攻撃元のボットの特定に至るまで、安全性をエンドツーエンドで提供できるようになる」(Singh氏)
5Gで構想されているサービスは、上述のオンラインを通じたユーザー体験のさらなる高度化だけではなく、IoT(モノのインターネット)などによる産業構造に変革をもたらすものまで非常に幅広い。それらの多くは検討あるいは実証の段階にあるが、2020年ごろの商用開始時に、どれだけ具現化されているかが、その後の普及を左右する。
Singh氏は、日本やオーストラリア、ニュージーランド、韓国といった国や地域で5Gの普及を見据えた取り組みが活発に進んでおり、モバイルオペレーターのみならず、固定系やIT系のプロバイダーを含めたムーブメントになっていると語る。同社としても、ソリューションポートフォリオを確立するとともに、2020年ごろの商用化段階で各種サービスを提供可能なレベルにすべく、2019年までに顧客の支援へ全力で臨むとしている。
5Gでは“ネットワークスライシング”によってサービスに応じた最適なネットワークを提供できるようになる
「5Gは、例えば、事故現場において瞬時にICT環境を提供することで迅速かつ高度な人命の救助を支援できるようにするなど、社会インフラとしても大きな役割を果たす。そうした世界はすぐ近くまで来ており、5Gの可能性にぜひ注目いただきたい」(Singh氏)