アジア太平洋地域では、金融・小売・製造など多岐にわたる分野で、「ロボティックプロセスオートメーション(RPA)」の試験運用を完了し、さまざまな規模で実用化を進めている。Ernst&Young(EY)のパートナーで、アジア太平洋地域のRPAリーダーを務めるAndy Gillard氏はこのように語る。
「アジア太平洋地域の多くの企業が3年前にはまだ概念実証を開始していなかった。それが昨今、急拡大していることを考えると、RPAが重要な価値を持っていると分かる。顧客体験の改善、生産性の向上、リスクの軽減といった用途で効果を発揮する」
複数の国にまたがる運用も珍しいものではなくなりつつあるという。その多くはセンターオブエクセレンス(CoE)による中央集権型の組織で統制を確立しており、RPA基盤を国外に集約して運用するケースもあるようだ。

Ernst&Young(EY) パートナーのAndy Gillard氏(右)とEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング パートナーの高見陽一郎氏(左)
EYでは、RPAの活用を3年以上前から始めており、組織内のプロセスの自動化を進めてきた。現在、世界中で1000体近くのソフトウェアロボットが24時間体制で稼働しており、会計業務や人事業務、サポート業務などに関連するさまざまな反復業務や定型業務を支援している。今後数年を掛けて、この運用規模をさらに増大させる計画だという。「人事の領域では、年間6万5000通も届く履歴書の仕分けをRPAで自動化した」(Gillard氏)
また、Gillard氏の指摘によると、多くの企業がRPAの活用を小規模に始めて全社規模での運用に簡単に移行でき、そこから多くの利益を得られると誤解している。
人工知能(AI)やチャットボット、ロボットなどを用いた「インテリジェントオートメーション」の根本にあるのは、「オートメーションをインテリジェントなやり方で確実に提供できているか」という問いであるという。そして、業務プロセスを変革・再構築するためには、複数の自動化技術の活用とともに、業務の流れを分析・改善する「ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)」が重要になると説く。
日本におけるRPA活用の実態
日本の状況については、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングのパートナーで日本のRPAリーダーを務める高見陽一郎氏が見解を明らかにした。
多くの日本企業は2017年にRPAの概念実証を行い、2018年になるとグループ展開を試みる事例が増えている。同社顧客の一部では、全社展開を念頭に置いて導入を検討しているケースもあるという。しかしながら、大多数の場合は、クライアントPCのデスクトップレベルの自動化にとどまる「ロボティックデスクトップオートメーション(RDA)」から始めている。
「RPAの導入スピードには各社で違いがあるため、企業の戦略やビジョンによって差が広がっていくだろう。また、自動化の範囲を拡大するためには、どういうテクノロジの組み合わせが最適かを理解する必要がある。世界の国々と活用の傾向は一致しているとはいえ、日本は言葉の違いという課題があるため、異なるソリューションを探す必要があるかもしれない」(高見氏)
RPAの活用を成功させるためには、インテリジェントオートメーションに対する明確な戦略とビジョンを掲げること、適切なガバナンス構造と運用ポリシー・ルールを確立すること、プロジェクトをしっかり管理すること、ビジネスプロセスの設計/再設計を実施すること——が重要だと高見氏は話す。