日本マイクロソフトと富士フイルムイメージングシステムズは11月26日、人工知能(AI)を活用したスポーツ写真の人物特定機能を開発したと発表した。富士フイルムのクラウド型ファイル共有サービス「IMAGE WORKS」において、Microsoft Azureの機械学習サービス「Cognitive Services」「Cognitive Toolkit」などを活用。
日本野球機構(NPB)が管理・運営する「NPB CIC(Contents Image Center)」上のプロ野球選手の名前を自動的にタグ付けする「選手名情報自動タグ付け機能」として実装。既に2018年6月から広島東洋カープをはじめとするセントラル・リーグとパシフィック・リーグの5球団で試用を開始しており、2019年シーズンからはNPB CICを導入済みの全球団での利用を予定している。
富士フイルムイメージングシステムズ イメージテック事業部 クラウドメディア営業部 課長 松下太輔氏
富士フイルムグループにおいて写真・映像・情報販売を手掛ける富士フイルムイメージングシステムズは、同グループ上で稼働する写真やデザインの管理・共有を可能とするIMAGE WORKSを、2006年から提供中。現在までに国内2000サイト(累積結果。姉妹サービス「SECURE DELIVER」の利用件数も含む)で使用されている。同社顧客であるNPBの要望により、写真のタグ付けを自動化する機能を実装した。同社は「1試合当たり3000枚近く撮影し、その中から価値のある写真300枚程度を抽出して、選手名などのタグ付けを手動で行っている。担当者にアンケート調査を行ったところ、平均試合時間の3時間を超える、約4時間の整理作業が必要だった」(富士フイルムイメージングシステムズ イメージテック事業部 クラウドメディア営業部 課長 松下太輔氏)と説明する。
IMAGE WORKSの「選手名情報自動タグ付け機能」
NPB 総合企画室 参与 兼務 事業本部 事業推進部 参与 吉田伸記氏
この処理を「Microsoft AI」と、野球に関するデータを集約することで分析や加工を容易にする「NBP BIP(Baseball Innovation Platform)」のデータとマッチングさせ、90%以上の正解率を実現させている。具体的にはCognitive Servicesに含まれる「Face API」で学習済みモデルを通じた選手の顔認証と、マスコットキャラクターや客席といった他の学習モデルを組み合わせ、分類モデル解析を行う。また、これらの画像解析・推定処理は複数のファンクション(関数)をつなぎ合わせる「Durable Functions」を利用することで処理画像枚数が増えても、処理時間の増加は最小限に抑えられる。最終的には約4時間の整理時間を、担当者による手動の確認作業を含めて約30分まで短縮した。IMAGE WORKS側でも独自の学習モデルを用意し、打撃・投球・守備といったシーンを自動判定している。担当者は「選手の顔が判断しにくく、2割程度は取りこぼしていたが、(一連の仕組みと)公式記録とのマッチングや利き手を判断することで、高い推察力を実現」したと語る。
NPBによれば、登録写真枚数は54万4000枚(約2TB)、利用申請件数は約6000件、貸し出し枚数も4万6000枚まで増加中。「プロ野球選手の写真コンテンツの需要が高まり、各球団の業務負荷低減が急務」(NPB 総合企画室 参与 兼務 事業本部 事業推進部 参与 吉田伸記氏)とソリューションの導入意義を説明した。同団体は約10億円規模まで拡大するコンテンツ資産の活用先として、「今後はAIによる新たな検索方法や過去画像の商品化、映像データへの拡張、プロ野球ファンが喜ぶ写真販売など、消費者向けへの展開を目指す」(吉田氏)
日本マイクロソフト 業務執行役員 クラウド&エンタープライズ本部 本部長 浅野智氏
日本マイクロソフトはAIの利用について、「本来対応すべき高付加価値業務へ時間の割り当てが可能になる」(日本マイクロソフト 業務執行役員 クラウド&エンタープライズ本部 本部長 浅野智氏)と述べつつ、同社が掲げる「理論的なAI」について次の様に語った。「AIはデータの集合体。現在はアジア・日本に特化した画像が少なく、『パイロット』と検索すると白人男性、『医者』なら男性画像ばかりヒットし、AIの回答が平等なのか問われてきた。(ソリューションを通じて)AIの精度も高まり、平等なAIへ近づくことを期待している」。
また、富士フイルムイメージングシステムズも1年程度で実装した機能を通じて、「今回得た知見を基盤に他のスポーツへも展開したい」(松下氏)と将来展望を語った。