流通小売事業者を支援する独自施策、マイクロソフトが無償提供へ

阿久津良和

2019-01-30 06:00

 日本マイクロソフトは1月29日、流通業向けにリファレンスアーキテクチャ(基本的な実現方式)となる「Smart Store」を無償提供すると発表した。日本独自の取り組みとなるSmart Storeは、キャッシュレスに伴うスマートフォン決済や数百万種に及ぶ商品在庫を数百店舗で一括管理する商品マスタ、商品トランザクション管理といった店舗ビジネスにおける業務シナリオに沿ったサンプルアプリケーション、サンプルコードが含まれている。

 同社は、新規サービスの開発期間を5割、実装方式の設計コストを7割、将来的な運用コストを5割削減できると見込んでいる。また、Smart Storeサービス開発者の育成を目的とした技術者育成プログラムを3月から提供し、流通業特化型ビジネスハッカソン開催などを含め、2020年3月までに3000人の技術者育成を目指す。さらに同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援部隊であるデジタルアドバイザーがSlalomの提供するアジャイルワークショップを活用し、流通業各社の経営や事業資産構成を踏まえたコンサルティングを行う。

 昨今のMicrosoftは、米国の大規模小売店を運営するWalmart(2018年7月発表)やKroger(1月発表)、日本でも展開中のGAP(2018年11月発表)やヘルスケア系小売業のWalgreens Boots Alliance(1月発表)など各流通企業とパートナーシップを結び、DX推進を支援してきた。既にMicrosoftは、Krogerとともに「RaaS(Retail as a Service:サービスとしての小売業)」ソリューションを外販することを米小売業向けイベントのNRF 2019で発表している。「データを活用することで洞察を得て、顧客の体験向上や従業員の強化、サプライチェーンの拡大といった流通業の再構成を支援するグローバルメッセージ」(日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部 インダストリーマネージャー 藤井創一氏)と、Microsoftの姿勢をつまびらかにした。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部 インダストリーマネージャーの藤井創一氏
日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部 インダストリーマネージャーの藤井創一氏

 日本マイクロソフトは、2019年度経営方針記者会見で製造や教育といった8分野に注力するインダストリーイノベーションを中長期計画として発表、その1つである流通に対する組織作りを続けてきた。現在、同社はエンタープライズ事業本部のもとに、小売/総合商社/消費財を扱う流通サービス営業統括本部を設置し、さらに小売/総合商社を担当する第一営業本部、小売に特化したインダストリー本部、小売/消費財を担当する第二営業本部が連なる体制となった。

 同社は流通業界に対して、「グローバルレベルで見ると、流通業をとりまく環境はデジタルの影響が大きい。消費者の行動変化に伴うオムニチャネル化や、新たなディスラプター(競合)は一定のシェアを確保しつつある」(藤井氏)と見る。その上で日本は、「デジタルを活用した生産性向上が盛り上がりを見せてきた。(流通業は)デジタルの活用や(変化に伴う)インパクトを理解して、ビジネスの革新と再構築が必要」(同)と、流通業に対する観点を紹介しつつ、迅速かつ柔軟な店舗展開とデータ取得の促進を目的としたSmart Storeを提供し、データ分析・活用による顧客理解とエンゲージメントの加速させる「Smart O2O」を近々に展開するとした。

 Smart Storeについてもう少し掘り下げると、日本マイクロソフトは国内の流通小売業が直面している課題として、「単一のテクノロジ/ソリューションではビジネス課題を解決できない。また、新しいテクノロジに追従する人材の育成・確保も困難だ。さらに現場ではシステムのサイロ化による運用コスト増も発生している」(日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部 クラウドソリューションアーキテクト Smart Storeチームリード 越田陽一氏)と分析している。

 その上で、「今後の店舗はPOS(販売時点情報管理)レジスタ(レジ)にとどまらず、多様なデバイスを設置してAI(人工知能)技術を活用する段階に進む」(越田氏)という。例えば、販売量を予測して在庫を搬入するAIを導入した場合、商品を逐一に棚出ししないと機会損失につながってしまうが、カメラ画像を用いた分析ソリューションで状況を把握すれば、適切な棚出しが可能になる。このような仕組みが広まることを想定し、Smart Storeの提供に至ったという。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部 クラウドソリューションアーキテクト Smart Storeチームリードの越田陽一氏
日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部 クラウドソリューションアーキテクト Smart Storeチームリードの越田陽一氏

 日本マイクロソフトでは、Smart Storeの無償提供を通じて、「先進的なテクノロジを用いたリファレンスアーキテクチャを業界共通でオープン化し、各社へ提供」「リファレンスアーキテクチャを基盤としたパートナーおよび技術者育成」「流通小売業者の差別化による新規ビジネス開発に専念するための支援」を目指すとしている。

 例えば、「商品をカメラで自動認識し、スマホアプリのカートに登録して精算。キャッシュレスによるスマホ決済。商品マスタとのトランザクション管理を可能とする。このサンプルソースコードを提供し、流通小売業者は自社のスタイルに応じてカスタマイズする」(越田氏)。同社の説明を踏まえるとAmazon Goに代表される無人店舗の運用につながる可能性が見え隠れするが、「我々は便利な部品を提供する立場で、ビジネスはパートナーや流通のお客さま」(越田氏)とあくまでもMicrosoft Azureに代表されるデジタル基盤の提供と顧客支援にとどまると自社の姿勢を説明した。

日本マイクロソフトはサンプルとしてQRコード決済やカメラなどを備えた商品棚「Microsoft Smart Box」を開発。こちらを活用したハッカソンの開催も予定している
日本マイクロソフトはサンプルとしてQRコード決済やカメラなどを備えた商品棚「Microsoft Smart Box」を開発。こちらを活用したハッカソンの開催も予定している

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    従来型のセキュリティでは太刀打ちできない「生成AIによるサイバー攻撃」撃退法のススメ

  2. セキュリティ

    マンガでわかる脆弱性“診断”と脆弱性“管理”の違い--セキュリティ体制の強化に脆弱性管理ツールの活用

  3. セキュリティ

    クラウドセキュリティ管理導入による投資収益率(ROI)は264%--米フォレスター調査レポート

  4. セキュリティ

    情報セキュリティに対する懸念を解消、「ISMS認証」取得の検討から審査当日までのTo Doリスト

  5. セキュリティ

    ISMSとPマークは何が違うのか--第三者認証取得を目指す企業が最初に理解すべきこと

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]