北欧に位置するエストニア共和国。戦争による不幸な歴史を背負いながらも、IT先進国として同国を広く知らしめているのが「電子政府」の存在である。日本でも2000年12月にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)の制定や、2001年には後のe-Japan戦略に連なるIT基本戦略が打ち上げられたものの、行政サービスのIT化はいまだはるかかなただ。
エストニア政府は国外の外国人にインターネット経由で企業設立や銀行取引、課税といった行政サービスを提供する「e-Residency(電子居住権)」を展開するなど、他国民にも広く門戸を開いている。そのe-Residency広報部門長をはじめとする政府関係者が2月20日に来日し、記者を集めたラウンドテーブルを開催した。
e-Residencyはエストニア国民もしくは居住者以外に、政府が発行するデジタルIDと各種電子サービスへのアクセス権を付与するステータスを指し、市民権とは異なる存在だ。パスポートや写真、クレジットカードと100ユーロの納付金を用意してオンラインで申し込めば、エストニア警察と国境警備庁による申請確認を経て、大使館もしくはエストニア本国で生体認証付きIDカードが発行される。
エストニア政府 Startup Estonia部門長 Maarika Truu(マリカ・トゥルー)氏
現在ID所有者は150カ国から5万人を数えるが、注目すべきはe-Residencyがペーパーレス企業を設立できる点。「EU(欧州連合)を拠点とした企業設立をペーパーレスで実行できるのは他のEU諸国にはない。数分で完了するため大きな時間節約になる」(エストニア政府 Startup Estonia部門長 Maarika Truu氏)ことから、利用企業数は6700社まで拡大している。
日本からも2577人(世界7位、アジア1位)、191社(世界13位、アジア2位)がe-Residencyを利用している。著名な企業としてはブロックチェーン企業のBlockhiveなどが利用しており、エストニア政府は「ユニコーン企業を目指せる存在として注目を集めている」(Truu氏)とe-Residencyの普及をアピールした。
エストニア政府 e-Residency広報部門長 Arnaud Castaignet(アルノー・カステグネ)氏
e-Residencyを実現した背景には電子政府の存在が大きい。1991年の独立回復宣言後、教育システムや技術者のスキルを誇るエストニアは電子政府化という「大きな決断」(エストニア政府 e-Residency広報部門長 Arnaud Castaignet氏)だった。崩壊直前だったソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)を抑制するため、軍事ではない独自の魅力を所持しなければならないエストニアは電子政府へ大きく舵を切る。
当時はインターネットの存在が徐々に広まり、低コストな政府を作るために冒険的な決断を下した。「経済危機など多くの困難に直面したが、政府は方針を覆すことはなかった」(Castaignet氏)
段階的に電子サービスを提供し、現在は税金や投票制度もデジタル化し、「ある意味でエストニア人は甘やかされている。電子化は生活の一部で、これ以外は考えられない」(Truu氏)という。