本連載は、元ソニーの最高情報責任者(CIO)で現在はガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。
昨今は、企業にとってデジタルビジネスへの対応が死活問題になる中で、企業がアプリケーション開発にアジリティを求めるようになっている。そこで今回は、アプリケーションの開発や戦略などのリサーチを担当する片山治利氏に、ビジネスの価値を実現するためのアプリケーション開発の現状を尋ね、多くの企業で関心が高まっている「アジャイル型開発」の正しい適用方法やIT部門の在り方などを語ってもらった。
自社のITシステムを「ペース・レイヤ戦略」で分類する
長谷島:まず担当しているリサーチの領域を教えてください。
片山:私はアプリケーションのグループに所属し、アプリケーションの開発や戦略、ガバナンスを担当しています。
ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 アプリケーション開発 シニアディレクター アナリストの片山治利氏。外資系のシステムコンサルティングファームや金融系企業などにおいて、システム開発、プロジェクト・マネジメント、などの業務に従事。2011年3月より現職。主にアプリケーションの標準化、近代化などに関わるアプリケーション・ガバナンスについてのアドバイスと提言を行っている
長谷島:昨今、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)への変革が進められている中で、経済産業省が公開した「DXレポート~2025年の崖」でも指摘しているように、その基盤となる基幹系システムが堅牢でなければ、DXの仕組みを作るのは難しいという議論があります
一方、基幹システムの刷新には相当のコストと時間がかかるという問題もあり、単に従来のやり方を繰り返すのではDXの推進に支障をきたすと悩む企業が多いようです。アプリケーションの領域からどうアプローチしていけばいいですか。
片山:今後どのように基幹系システムを扱っていくべきかというのは、かなり難しい問題だと思います。切り口は色々ありますが、ガートナーは、以前からアプリケーションを大きな塊として全体を捉えるのではなく、アプリケーションの特性に即してガバナンスやアプローチ、開発手法、デリバリーの仕方などを考えるべきだと提言しています。
具体的には「ペース・レイヤ戦略」という考え方です。アプリケーションを使用目的と変更の頻度で分類し、分類ごとに異なる管理とガバナンスのプロセスを定義するという手法です。大まかには、「記録システム」「差別化システム」「革新システム」という3つのレイヤに分類します。ここで言う「ペース」とは、変更の頻度を表します。
まず記録システムは、データのトランザクションを処理するだけなので、あまり変更されることはありません。自社特有ではなく他社と共通する部分が多いことから、法制度などが変わらない限り変更する必要があまりありません。
次に差別化システムは、企業特有のプロセスや機能を支援するアプリケーションです。自社独自の部分が必要なので、競争優位の維持や自社のやり方を変わるたびに変更を加えていきます。そして革新システムは、今までにはない全く新しいものを作り出します。企業のビジネス全体を変えるようなインパクトをもたらす実験的な新しいアプリケーションを作り、だめなら捨てることもあります。
自社のデジタル化を考えた時に、アプリケーションをこのようなレイヤに分けて考えることが有効になってくるとガートナーでは考えています。