百貨店の大丸や松坂屋、ショッピングセンターのパルコなどを運営するJ.フロントリテイリング(JFR)は「G Suite」を活用、グループ所属社員1万2000人が利用している。今秋からは5000社を超えるテナント企業の社員を含めたG Suiteの利用を予定している。
G Suiteへの移行では、「チェンジマネジメント」と呼ばれる手法を活用した。3月14日にグーグルが開いた記者会見で披露された。
JFRはこれまで、複数の小売事業を展開する“マルチリテイラー”として歩んできたが、小売業だけでは厳しい現状を踏まえて、グループビジョンに「くらしの『新しい幸せ』を発明する」を掲げつつ、グループ内に多様な業態を抱えることで、あらゆる変化に対応する“マルチサービスリテイラー”を目指している。
J.フロントリテイリング グループデジタル戦略部 あたらしい幸せ発明部 インフラ企画担当 土屋真弓氏
その一貫として同社は「業務の効率化」「組織の生産性向上」「発明体質」といったキーワードを並べつつ、2016年7月に7000人の社員を対象にアンケートを実施したところ、「メールボックスの容量が小さい」「2カ月で消える」「社外から確認できない」といったメールに関する声が大きかったという。
百貨店の店頭では各種通達やマニュアル、シフト表を紙で配布しているため、働き方改革以前の状態にあった。それまでのJFRが使用していたグループウェアは古いことも相まって、JFRのグループデジタル戦略部 あたらしい幸せ発明部 インフラ企画担当 土屋真弓氏は「発明体質の企業だったGoogleを選んだ」と語る。
「(Googleは)グローバル企業のためアメリカンな対応かと思っていたが、意外にも日本的な営業スタイルで、われわれの課題に寄り添って解決してくれたのが担当者として響いた」(土屋氏)とG Suiteの選定理由をつまびらかにした。
お世辞にもテクノロジに明るくないJFRが、G Suiteの一括導入を円滑に進められた理由はチェンジマネジメントにあるという。同手法について、Google Cloud 日本アジア太平洋地域企業変革コンサルタントである山田理禾(あやか)氏「人のケアに焦点を当てながら体系的に変化プロジェクトを進める」と説明する。
同手法は(1)関係者を巻き込む、(2)組織分析、(3)コミュニケーション、(4)教育――という4つの活動から成り立つ。
(1)の「関係者を巻き込む」は経営トップや部課長、エバンジェリストが巻き込みの対象となる。経営層が導入プロジェクトへ自ら参加し、周りに啓発することでプロジェクトの重要性は増す。現場を理解する部課長層は部門の先頭に立って具体的なG Suiteの活用例を提示。そしてエバンジェリストはボランティア活動、社員からの質問時間を意図的に設けるなど企業全体を巻き込む役割を担う。
実際にJFRも社長の声を全社員に届けるため、ビデオメッセージを研修時に流すなど、いくつかの取り組みを行った。また、役員クラスはIT知識が乏しいことが多いものの、誰から操作に慣れると周りも負けん気を起こして、一定のレベルに達したという。