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早大 入山氏に聞く、日本企業が「腹落ち」すべきイノベーションの真実(前編)

國谷武史 (編集部)

2019-06-03 11:00

 ここ数年、日本企業にとってデジタル変革やビジネスイノベーションの取り組みが大きな経営課題になっている。概念実証などの試みも増えてはいるが、まだまだ成果は見えてこない。そこにはどのような原因が存在し、日本企業はどう克服すべきだろうか。前編では、「イノベーションとは何か?」を中心に、早稲田大学ビジネススクール 教授 経営学博士の入山章栄氏に聞く。

--日本でも企業がデジタル変革などの必要性に迫られ、ようやく取り組みが本格化しているように感じます。入山さんが提起するオープンイノベーションの観点からはどの程度進んでいると見ていますか。

 まず、オープンイノベーションは経営学的には「知の探索」と言う考え方で捉えられます。イノベーションの源泉は、既存の知と既存の知を新しく組み合わせていくことにあります。しかし人間の認知には限界があり、どうしても目の前のことにしか認知できない傾向にあり、結果的に組み合わせが尽きてイノベーションが止まるのです。特に、日本でイノベーションに苦しんでいるのが大手企業や中堅企業です。これはある意味当然のことで、長い歴史を持ち、同じ業界、場所に長くいるところが多く、目の前にある範囲での知と知の組み合わせは何十年もやっていますから、イノベーションの種が尽きているわけです。そうなるとイノベーションは絶対に起きませんから、目の前にある認知の外側に出ることが絶対に必要です。オープンイノベーションはそのためにあるわけです。

早稲田大学ビジネススクール 教授 経営学博士の入山章栄氏
早稲田大学ビジネススクール 教授 経営学博士の入山章栄氏

 以前、ネスレ日本のトップで屈指のイノベーターである高岡さん(ネスレ日本 代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏)が、「自分の認知の範囲内で起きていることは全てイノベーションではない」と、全く同じことを話されていました。つまり、自分が知る、動く範囲で起きていることはイノベーションとは呼べません。むしろ、われわれが気付かないか、あるいは、あきらめているようなニーズを見つけることが大事、というのが高岡さんの主張です。

 例えば、私はコーヒーが好きなのですが、それでいま愛用しているネスレのカプセルでコーヒーが飲める「ネスカフェ ドルチェ グスト」が良い例ですね。以前は大学の研究棟の1階にあるコンビニエンスストアへ、11階の研究室から1日に何回もコーヒーを買いに上り下りを繰り返していました。1日の合計だと下手をするともしかしたら1時間近く、コンビニの往復に費やしていたかもしれません。そこで、たまたまドルチェ グストを購入しましたが、それによって店に買いに行くことが全くなくなりました。よく考えると、私はコーヒーを買いに行くだけですごく時間と労力を無駄にしていたわけです。でもしょうがない、と無意識に諦めていたわけですね。

 これが“あきらめていたニーズ”の一例ですが、ドルチェ グストができたことで、それが解消されました。たぶん、こういうことがイノベーションであり、だれもが考えつかなかった、そこにある課題を解決するということだと思います。以前高岡さんになぜこのようなイノベーションの視点を持てるのかをうかがったら、ダイバーシティーの高いネスレ社の本社などでいろんな視点に触れ、自分の視点が良い意味で壊されたからだとおっしゃっていました。

 このようにオープンイノベーションという知の探索では、可能な限り多様な視点に触れることが重要です。いまだ自前主義が強い日本は、オープンイノベーションがまだ明らかに足りていない状況です。もっとこれを常態化しなければならないでしょう。ネスレのようなグローバル企業の本社にいれば、自分たちだけで抱え込むことはあり得ませんから、組めるところとはどこでも組むという姿勢でなければ勝てないですし、変化は起きません。

 デジタル分野に関する取り組みも同じです。例えば、APIなどはもっと積極的に取り組むべきでしょう。例えば、従来のようにITシステムをベンダーに丸投げしていることで、企業は長らくベンダーへの極度な依存状況が起きていました。

 外注先は「御社だけに向けたカスタマイズをします」「パッケージ製品はだめです」といった、発注元にとって非常に聞き心地の良い提案をしてきますが、これは術中にはまってしまうようなもので、そうなると会社の情報を全て提供しなければならなくなり、これが長く続くことで、いざシステムを更新しようとすると、その外注先にしか頼めなくなってしまうのです。これを経済学の専門用語で「ホールドアップ問題」と呼びます。

 デジタルが戦略になる時代であるにも関わらず、日本ではまだまだCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)の立場が弱いのです。CIOの設置が常識でなければいけないでしょうし、CIOがCEO(最高経営責任者)と同じレベルで戦略的にデジタルをどうしていくかを考えなければいけないと思います。発注者がもっと戦略的に取り組まなければなりません。

 例えば、最近のスタートアップにはシステムを内製する流れがありますよね。戦略的に取り組む明確な理由があるからですね。現在は、クラウドによって圧倒的に安く作ることもできます。大企業の中にもパートナーの役員クラスを社外取締役として巻き込むところがありますが、それでもまだ一部です。SaaSなどのおかけでITの仕掛けを安く作れる時代ですから、オープンイノベーションを考える上でもデジタルはより戦略的に考えるべきでしょう。

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