人工頭脳学やコンピューター科学みの親と話すことは、筆者にとって大きな喜びである。人工知能(AI)やロボット工学は比較的歴史の浅い分野であるため、これらの分野の先駆者の多くは存命であり、各種イベントにも積極的に参加している。彼らと議論することは、Thomas Jeffersonと民主主義について、Albert Einsteinと物理学について議論するようなもので、こうした機会を見逃す訳にはいかない。
こうした先駆者は、自らが携わったテクノロジーについて、現代の潮流とは異なる視点を持っていることが多い。彼らは進歩のためだけに技術的な進歩を目指すのではなく、技術が社会に与える影響について高い視座を持っている。
ベンチャーキャピタリストやシリコンバレーの億万長者、スタートアップ企業の創業者には、企業や個人としての興味や見解を持ち合わせているが、年長の賢人たちはこれらを経験してきた。もちろん、彼らが常に正しい訳ではないが、その声には可能な限り耳を傾けるべきだろう。
筆者は幸運にも、発明家のRay Kurzweil氏、コンピューター科学者のLeonard Kleinrock氏、UNIXの生みの親の1人であるKen Thompson氏らと会う機会に恵まれた(この記事を読めるのも、彼らが直接的あるいは間接的に関与したテクノロジーのおかげである)。
2016年に英国オックスフォードで開催されたAIカンファレンスでともに講演したことがきっかけとなり、筆者の「偉人リスト」に英国シェフィールド大学のNoel Sharkey氏という大物が加わった。彼はAIとロボット工学の教授であると同時に、心理学の博士号も取得しており、英国のテレビ番組「Robot Wars」ではエンターテイナーとしての才能を発揮し、その名世に知らしめた。
さらにSharkey氏は、近年自らが設立したFoundation for Responsible Robotics(責任あるロボット工学のための財団)や国際連合などの団体による自立型殺人ロボット兵器に関するキャンペーンを通じて、「人権」において「人」が忘れられてはならないという政治的な主張を強く訴えている。
Deep Blueの勝負から想起される機械との関係
2019年5月、パリで開催されたイベント「VivaTech」の基調講演でSharkey氏と対談する機会があったが、彼は理想的な対談のパートナーだった。筆者と彼への質問は「AIは悪になりうるか?」というシンプルなもので、筆者と彼はともに開始早々に「悪にはならない」という結論を出した(その後には当然、「しかし…」と続くのだが)。
筆者と彼は回り道して話を始めた。Sharkey氏のような多面的な人物と話をする際にはよくあることだが、それが後に明確な対比を示すことになった。