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プロセスマイニングはDXの出発点--欧州発祥のアプローチとは?

石田仁志

2019-11-05 06:00

 多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む中、業務改革を推進するための新たなアプローチとして、「プロセスマイニング」という手法が注目されている。この領域では既にロボティックプロセスオートメーション(RPA)が普及しつつあるが、RPAが往々にしてコストや時短の議論にとどまりがちであるのに対し、プロセスマイニングは、デジタルやデータを活用した業務改善というDXの本質をより見据えたものといえる。

 この分野に進出するハートコアが10月8日に開催したプライベートイベント「HeartCoreDAY2019」では、プロセスマイニングツール「myInvenio(マイインヴェニオ)」を開発するイタリアの Cognitive Technologyで最高経営責任者(CEO)を務めるMassimiliano Delsante氏が登壇し、プロセスマイニングの導入と実践について講演を行った。Delsante氏とハートコアの創業者で代表取締役社長CEOの神野純孝氏に、プロセスマイニングの本質を聞いた。

欧州発祥のソリューションが日本に

 プロセスマイニングは、企業で行われているさまざまな業務プロセスに関して記録されるトランザクションデータを分析し、業務改善に活用する取り組みとなる。専用のデジタルツールを使い、従業員が業務で活用しているERP(統合基幹業務システム)、CRM(顧客関係管理)、SFA(営業強化支援)といった各種アプリケーションの操作状況を詳細に記録したイベントログのデータを収集、分析することで業務プロセスを可視化し、無駄な業務やボトルネック、コンプライアンス違反などの問題点を発見して改善につなげていく。

Cognitive Technology 最高経営責任者(CEO)のMassimiliano Delsante氏とハートコアの創業者で代表取締役社長CEOの神野純孝氏(写真右)
Cognitive Technology 最高経営責任者(CEO)のMassimiliano Delsante氏とハートコアの創業者で代表取締役社長CEOの神野純孝氏(写真右)

 プロセスマイニングの発祥はオランダで、ドイツなど欧州を中心に広がりを見せているという。だが、グローバルで見ると、まだ黎明期といった段階にある。ツールを提供するベンダーも少なく、日本では全く普及していないと言っていい。そんなプロセスマイニングの現状について、Delsante氏は次のように解説する。

 「プロセスマイニングはオランダのEindhoven工科大学でプロセスマイニングの父と呼ばれるWil van der Aalst氏(現在はドイツAachen工科大学教授)が確立した手法になる。2010~2012年にかけて欧州全土で認知度が高まっていった。学術的な観点でもvan der Aalst教授はプロセスマイニングの学部を受け持っており、履修した学生が卒業して企業などに広めていった。これが欧州で先行している理由だ。グローバルでは、企業のビジネスインフラとしてSAPが使われている土壌があるが、日本ではシステムインテグレーション(SI)会社の個別開発の業務アプリケーションを手掛けていたり、スプレッドシートでデータが管理されたりするというケースが多い。プロセスマイニングはどのような業務にも適用でき、データさえあれば、どんなトランザクションやプロセスでも分析できるが、そういったデータにツール側が対応しておらず、日本での導入が遅れている」(Delsante氏)

円滑導入には経営主導のCoEで

 企業では、これまでも業務プロセスを継続的に改善していくBPM(Business Process Management)の取り組みがなされてきた。日本独自の「カイゼン」活動に加え、コンサルティング会社独自のノウハウや方法論をもとにしたサービスも提供されてきた。それらと異なるプロセスマイニングを企業が導入するには、どのような体制や意識で臨むべきかを新たに考える必要がある。ハートコアの神野氏は、日本企業が取り入れる上でさまざまな障壁があると指摘する。

 「導入では経営層が主導するケースとIT部門が主導するケースがあり、経営層主導の場合、IT部門がボトルネックになる。プロセスマイニングで経営層が業務を分析する際に、IT部門やSI会社が手掛けた業務システムの利用状況が可視化されるため抵抗が生じる。ベンダー依存の壁を崩せないというのが理由のだ。一方でIT部門が主導する場合は導入がスムーズだが、業務担当者の仕事ぶりが可視化されるため、事業部門からの抵抗がある。日本ではそれらの障壁を越える必要がある」(神野氏)

 myInvenioをはじめとするプロセスマイニングのツールでは、トランザクションデータから業務プロセスがフローとして可視化され、プロセスの実行頻度や最適なプロセス、逸脱したプロセスなど実際のパフォーマンスを把握できる。このため神野氏が指摘するような状況に陥る恐れがあり、Delsante氏は海外のケースをもとに次の解決策を示す。

 「欧州でも基本的に同じ考えだが、プロセスマイニングの認知度が高まっているので、成熟したユーザーが多い。そうした企業は、経営陣の強いコミットメントのもと、業務部門やIT部門の代表者が集まり、『センターオブエクセレンス(CoE)』チームを立ち上げている。さまざまな立場の関係者が自分たちで決める形だが、このアプローチを導入できれば懸念される問題を解消でき、組織の中でプロセスマイニングを活用することへの障壁がなくなる。通常はCoEが組織全体のDXを担当するので、BPMやRPAも含め、それが全組織の基準になる」(Delsante氏)

RPAとプロセスマイニングの大きな違い

 日本企業の間でRPAが急速に普及した背景には、導入目的の部分で余剰人員や人件費を減らしたいという経営者の本音に合致したという面がある。Delsante氏は、実はプロセスマイニングとRPAには大きな違いがあると指摘する。

 「RPAはタスクを自動化するものだ。反復するプロセスを自動化することで人員や人件費を削減できる。プロセスマイニングは、実際の業務プロセスがどうなっているかが明確に分かる技術になる。このソリューシションが提供する価値は、プロセスの概念や全体像が目で見えるという点だ。その意味でRPAのフォーカスとは異なる。プロセスマイニングがフォーカスするのは発見のフェーズであり、現実のプロセスを見つけられることが本質だ。つまりはプロセス改善の出発点であり、DXの出発点になる」(Delsante氏)

 myInvenioでは、組織や業務のプロセスの現状を「デジタルツイン(Digital Twin of an Organization:DTO)」として、仮想環境上に図表を使ったモデルで可視化し、自動的に再現する。DTOとするのは、プロセスの改善策を実際の現場へと落とし込む前にモデリングを使ってさまざまな形でシミュレーションできるようにするためだ。これがDXの「基盤」になる。

 「RPAはDXの一部でしかない。欧州ではタスクの自動化とRPAが密に関係しているが、プロセスそのものの改善や自動化にはプロセスマイニングが役立つ。シミュレーションでは、BPMN(Business Process Model and Notation)で複雑な構造の業務プロセスを自動的にモデル化し、CMMN(Case Management Model and Notation)を使って、非構造的なケースマネージメントのプロセスを自動化していく。DXとしてプロセスを一気通貫で最適化したいときに、プロセスマイニングツールがさまざまな関係者を橋渡ししてくれる」(Delsante氏)

 日本では、従業員の働き方改革という名目で、RPAを使ったコストやリードタイムの削減を考える企業は多いが、プロセスマイニングは同じ効果を得るにしてもプロセス全体を通じて従業員の働き方の本質を捉え、可視化して掘り下げられることから、より大きな価値を得られるだろう。

 神野氏は、「RPAはあくまで人がする非効率な作業をそのまま置き換えるもの。プロセスマイニングは非効率な業務プロセスがあればそれを改善することで、効率的な業務プロセスに持っていける。今後RPAでは限界のある業務の改善にプロセスマイニングを適用できるだろう」(神野氏)

国内では大手製造業がファーストユーザーに

 Delsante氏によれば、myInvenioは金融業界を中心に世界で600社以上が導入している。日本では大手製造業が先行導入し、7社が概念実証を行っている段階だという。神野氏によると、プロセスマイニングの導入に際しては、コンサルティング会社などの支援を要する。その理由は、業務プロセスの現状を分析するには、コンサルティング会社でそうした作業をしている経験者のノウハウが必要なためで、人手をかけていた手間のかかる分析をツールで効率化することが当面のニーズになると見られている。

 RPAに比べてある程度の予算を必要とすることから、業務プロセスが煩雑化している大規模な組織でないと投資対効果は得にくいようだ。神野氏は、「バックエンドの業務だけではなくフロントエンドの業務にも展開していけると考えている。例えば、ウェブサイトやECサイトに関わる業務プロセスの分析をツールで行い、問題解決を支援していく提案もできるだろう」と話し、価値提案の幅を広げること導入を促進させたいとしている。

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