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急成長のRPAが幻滅期に入ったワケ

田中克己

2019-10-29 07:00

 自動化ツールの有望格と見られているRPA(ロボティックプロセスオートメーション)が期待した効果を得られず、がっかりした幻滅期に入った。最大の効果を発揮する適用業務を見つけ出せないからだ。業務プロセスの効率化だけに目を奪われた経営トップに課題があり、PoC(実証実験)から本格導入に至らないケースも散見される。RPAに何が起きているのか。

2018年10月に発表された「日本におけるテクノロジのハイプサイクル」。当時、RPAは「過度な期待のピーク期」を過ぎ、幻滅期の直前にあった
2018年10月に発表された「日本におけるテクノロジのハイプサイクル」。
当時、RPAは過度な期待のピーク期を過ぎ、幻滅期の直前にあった

複雑なジグソーパズルを解くRPAへの期待

 「エンタープライズソフトウェア市場で最速の成長を遂げている」――。米GartnerのDerek Miers氏は8月に開催した同社主催セミナーで、RPAへの期待感の高さを語った。世界の市場規模は2018年に前年比で63.1%、2019年も50%超の成長を予測する。企業価値が2年で50倍になったRPAベンダーもいるという。

 RPAはこれまでの自動化ツールとは異なり、すぐに効果が分かるので、導入する企業が急激に増えた。日本市場における導入企業は2017年12月調査の20.1%から2018年(同)に31.4%と、わずか1年で導入率が10ポイントも上がり、市場規模は2倍以上に拡大する(同社調べ)。

 その背景には、業務プロセスの複雑化がある。クラウド化がさらに複雑さを増し、「システムが複雑なジグソーパズルの状態になっている」(Miers氏)。確かに、多くの組織にはERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理)があるし、人事管理システムなどもある。ユーザーが「ERPのデータをCRMで使いたい」となっても時間がかかる。そこに、あるシステムのデータを別のシステムに取り込むといった定型業務を自動化するRPAへの期待が高まった理由の1つがある。

 その一方で、利用の見直しを検討するユーザーがじわじわと増えている。納期や出荷台数、価格などが変わるといった例外処理やエラーなどが、定型業務の自動化を妨げている。ガートナー ジャパンでアナリストを務める阿部恵史氏は「潜在的なリスクもある」と指摘する。人手を介する業務プロセスの一部をRPAで自動化することで、IT統制をどう担保するのかという問題が生まれる。もし最後に人がチェックするなら、手間をかけてRPAを使うメリットがあるのかとなり、PoCから一歩前に踏み出せなくなる。「RPAには、できることとできないことがある。他のツールでできるものもある」(阿部氏)

人員削減だけを目的にする失敗事例

 ドイツに本社を構えるSAPの日本法人は「RPAプロジェクトの失敗が30%から50%もある」と、ある調査データを示す。RPAの利用範囲を拡大できたのはわずか3%で、同社でバイスプレジデントを務めるプラットフォーム&テクノロジー事業本部長の首藤聡一郎氏は、「PoCで効果が出ないので、本格導入に二の足を踏んでいる」と明かす。業務プロセスのどこを自動化するのか診断せずに、自動化ツールを入れたことに原因があるという。

 BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業を展開する米Genpactの日本法人で社長を務める田中淳一氏も「PoCをしたが、うまくいかず、社内に広がらない」とし、原因は業務改革するところを見極めずに導入したことと指摘する。月に1回、年に1回といった些細な業務にRPAを適用するユーザーもいるという。これで大きな効果を見込めるはずはないだろう。

 失敗事例もある。GartnerのMiers氏は「人を削減したり、ダウンサイジングしたりするものではない。人員削減だけを目指すことに、社員は協力するだろうか」と、RPA導入の目的に問題があるという。例えば、ある消費財会社は財務業務にRPAを適用し、関係する人員を90人から60人に削減したが、それ以上の効果が生まれなかった。ある企業の経営トップは「バックオフィスの人員がRPA導入後も150人のままで、人件費が上がっている」と効果を疑問視する。実は「こなす業務量が7割増えて、業務の質が高度化したこと」をトップが理解できなかったのだという。

 RPAベンダーはAI(人工知能)などの機能強化を図るだけではなく、最適な適用業務を提案することだ。そのためにも、手本となる本格導入の事例を用意する必要がある。Genpact日本法人の田中社長は「業務の自動化は今の2~3割から5割になる」とし、BPOにRPAを組み込んだ提案を始めている。GartnerのMiers氏も「RPAは変革を加速させる」とし、業務プロセスを最適化する一方、新しいビジネスを創り出すことを説く。幻滅期から本格導入へと進む段階にある。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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