NECと東北大学は、メリーランド大学と共同で、機械学習を用いた材料開発技術において、材料の特性向上に関わる無数の要因から主要因を効率良く抽出する手法を開発した。さらに、この手法を用いてスピン熱電材料の熱電性能向上の実証に成功した。スピン熱電材料とは、スピン(小さな磁石)を活用し、熱エネルギーから電気エネルギーを生み出す材料のこと。
これまで、3者はロボティクス技術による自動実験の仕組みと、解釈可能な機械学習(Explainable AI)を組み合わせた「開発者が解釈可能なマテリアルズ・インフォマティクス」を開発してきた。しかし、自動実験で得られたデータが本来持つ不完全性を機械学習側で考慮する仕組みがなかったため、材料開発の効率を上げられない、という課題があった。
今回の手法を適用したシステムを用いることで、物理・化学などの専門的な知見を持った開発者が人工知能(AI)の予測結果の背後にある支配的な物理現象や因果関係をひも解くヒントを得られるようになる。これにより、材料開発/物性解析における新たな分野へマテリアルズ・インフォマティクスが適用でき、新材料の発見へとつながる可能性が高まる。
自動実験で得られたデータが本来持つ不完全性とは、ロボティクス技術を駆使して大量の材料作製とその特性データ取得を自動で行うコンビナトリアル実験技術で発生するもので、解釈可能な機械学習(異種混合学習)を組み合せたシステムを活用した材料の特性向上に関係する物性値などの要因探索では、数十〜百個程度の要因が関係しているとの示唆が得られたものの、特性改善に向けた材料探索を、数多くの要因に対して順に実施する必要があった。
今回、個々の実験データの不完全性を考慮することにより、実験データとそこで得られたデータを基に自動で材料シミュレーションを実行し、大量のデータを蓄積するハイスループット計算データの双方を同時に機械学習で扱えるようにすることで問題を解決した。さらに実際にスピン熱電現象に関する機械学習モデルを構築し、この機械学習モデルを物理・化学などの専門的な知見を持つ開発者が考察することで熱電性能に関係する主な要因を絞り込み、効率良く実験を進めることで性能向上を実証した。