ZDNet Japanは2019年10月17日、「ZDNet Japan Summit 2019--『失われた20年』から解放」を開催。基調講演には、日本瓦斯(ニチガス)で執行役員を務める松田祐毅氏が登壇した。デジタルトランスフォーメーション(DX)は海外の新興企業から始まったが、今では日本のあらゆる企業が達成すべき命題となっている。多くの変革を成し遂げる必要があり、そう簡単ではない。概念実証(PoC:Proof of Concept)の段階で頓挫するケースもある。どうすればビジネスにインパクトをもたらす形でDXを実現できるのか――松田氏は、自らの経験と自社の取り組みによって明らかにした。
日本瓦斯 執行役員 エネルギー営業本部 情報通信技術部 部長の松田祐毅氏
DX実現にはさまざまな“落とし穴”が存在
松田氏は、ニチガスに入社する前の2017年8月、面談した和田眞治社長から「うちはUberを越えたい」という熱のこもった話を聞いた。UberはDXの代名詞となる米国のユニコーン企業だ。エネルギービジネスを本業とするニチガスのイメージとは大きくかけ離れていたため松田氏は仰天したが、同時に「面白い!」と奮い立たされ、今はニチガスでDXの推進に取り組んでいる。
日本では、DXが「デジタル革命」と表現されることもある。松田氏は、「『革命』というより、組織の変隊であり、新しい能力を生み出す手段だ」と指摘する。あるいは、変化のベクトルや評価軸を変えることと考えてよいという。
多くの企業がDXを目指す中では「PoC貧乏」が生まれている。新しい試み、挑戦が検証段階で頓挫し、コストばかりかさむ現象だ。ITスタートアップ企業での経験がある松田氏は、事業会社とITベンチャーの間に溝が生じ、ITベンチャーが疲弊してしまうケースを指摘した。ITベンチャーには技術はあるものの、さまざまな業種・業態の企業と協働する中では、事業を深く理解するまでにはなかなか至らない。そのためプロジェクトのたびに異なる事業を渡り歩くと、本来の技術ドメインから逸脱した未経験の領域に足を踏み入れることとなり、協働する相手との溝が生まれる。そして、疲弊してしまうのだという。
あるいは、PoCの段階で「データが取れた」「データを集められた」と満足し、そこで終わるケースもよく見られる。DXで成功するには、データを使ったビジネスを考え、データが集まる仕組みを作ることが重要なはずである。また、RPAならば管理下にないたくさんの“野良ボット”が社内システムに異常な負荷をかけて業務を止めてしまうリスクも考えられる。事業部門や管理部門とIT関連部門がうまく連携することも必要だ。
このように、DX実現にはさまざまな“落とし穴”がある。しかし松田氏は、「着実に進めていけばDXは実現できる」と力強く話す。