SAPに聞く、成功するDXの共通点--コロナ禍時代にどう進めるか

末岡洋子

2020-06-02 06:00

 「デザインシンキング」をいち早く活用するなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を訴え続けてきたのがSAPだ。コロナ禍においても企業のDXは加速しているのか、SAPの支援はどう変化しているのか。イノベーション担当として多数の企業のDXに関わるSAPジャパンの松井昌代氏に聞いた。

 松井氏は、2013年にSAPジャパンに入社し、現在はインダストリー・バリュー・エンジニアとして医療、防災領域を中心に、企業のDXを支援している。3月には、SAPジャパンのブログで松井氏をはじめとする社員が紹介したDXの事例をまとめ、「Beyond 2025」(プレジデント社)として出版した。

ーーご自身が監修した「Beyond 2025」には34の事例が並んでいます。これらから見えてくる成功のパターンはありますか。

SAPジャパンでインダストリー・バリュー・エンジニアを務める松井昌代氏
SAPジャパンでインダストリー・バリュー・エンジニアを務める松井昌代氏

 “競争を作らない”ということでしょうか。企業によっては、上層部から「自社が勝つことを考えろ」という指示があるかもしれませんが、発想を変える必要がありそうです。

 現時点で地球の外に行くことはできません。地球環境や社会のためにという部分と収益を高める部分のバランスを見つけられたところが、DXを成功させているように見えます。

 DXがITだけではないという例もあります。医薬品の包装材料を事業の一つとするUACJは、アルミ箔に印刷できる電気回路を開発しました。これにより、医療患者が薬を服用しているかどうかをチェックでき、残薬増加の問題解決につなげるというものです。シールのような後貼りができるようにして、サービスビジネスに拡大を図るという点がDXですが、アルミニウムの可能性を追求する同社の技術者の熱い思いがあったからです。

ーー競争が変わってきたということでしょうか。

 そう思います。サステナビリティー、あるいは共存共栄やエコシステムという言葉が的確かもしれませんが、ここが重要になっています。自社だけが勝つということではなく、みんなで生き残っていく、そのエコシステムの中で自社のポジションを見つけることができるかどうかが大切です。

 SAPは、これまで業界トップの企業と共にビジネスプロセスを定義し、それを製品に搭載して、業界の人に”標準”として使ってもらうという形をとってきましたが、この形も変わっていくと思います。業界コンソーシアムでバックエンド業務などの業界標準を作るという動きがあり、標準部分は割り切って簡素化し、余力を生かして差別化する、つまりは“自分の居場所”を見つけることが、デジタル時代の進め方と言えます。単に標準化する、データをきれいにするだけではなく、何らかの新しい価値を作って居場所を作ることが大切です。

 「Beyond 2025」では多数の事例を紹介していますが、そこで共通しているのは、“ルビコン川を渡らないといけない”という点です。つまり、後戻りができないぐらい重大な決断をするということでして、技術的なルビコン川ではなく、決意のルビコン川という意味です。

 例えば、イタリアの電力会社は自社が非デジタルネイティブ企業であり、このままではいけないと認識してDXに挑みました。54億ユーロを投じて業務プロセスの合理化、課金システムのクラウド化などを進め、顧客のエネルギーアドバイザーに転身しました。覚悟や自覚が早かった例と言えます。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]