元Cisco Systemsのトップで現在は投資家として活動するJohn Chambers氏。その投資先の1つが、Pensando Systemsだ。Ciscoの著名なエンジニアらが立ち上げたソフトウェア定義エッジ/分散コンピューティング技術のベンチャーとして注目されている。Chambers氏は、同じくPensandoに出資するHewlett Packard Enterprise(HPE)が開催したイベント「HPE Discover 2020」の基調講演に登場し、HPEの最高経営責任者(CEO)を務めるAntonio Neri氏と対談した。
現在は投資家として活動するCisco Systems元最高経営責任者のJohn Chambers氏
Chambers氏は、2015年までの20年間、CEOとしてCiscoを率いた。就任時に7000万ドルだった売り上げを400億ドル規模に拡大させた手腕の持ち主だ。現在は、自身が立ち上げたベンチャーキャピタルJC2 Venturesで投資家として活動している。中でもPensandoは、Cisco時代にMPLS(Multi-Protocol Label Switching)としてイーサネットスイッチなどの技術を開発したことで知られる4人(Mario Mazzola氏、Prem Jain氏、Luca Cafiero氏、Soni Jiandani氏)がチームを組むベンチャーで、「AWS Nitro System」の対抗と位置付けている。Chambers氏は、同社の取締役チェアマンにも就任している。
対談ではまず、HPEのNeri氏が世界中で感染が広がる新型コロナウイルス感染症について言及し、「世界は大きな危機の最中にある。もう元に戻ることはないだろう。今後われわれは分散された世界で生きていくことになる」と切り出した。
企業はいきなりテレワークにシフトせざるを得ないなど、「準備ができていなかった」とNeri氏。Chambers氏に向かって、「次のデジタルトランスフォーメーション(DX)を考慮すると、企業は何を念頭に置いておくべきか」と尋ねた。
これに対してChambers氏は、「Fortune 500企業の40~50%がこの10年間にいなくなるだろう」との見通しを挙げた。「残酷な変化になる。コロナ禍はこれをさらに加速する」とChambers氏、「おそらくスタートアップの60%もこの10年間を生き残ることはできない。多くは2~3年のうちにいなくなる。つまり、ディスラプト(崩壊)するか・されるかの時期にある」と続けた。
さらにChambers氏は、「競合はこれまでの競争相手ではない。新しい市場の変移の中での戦いだ」と述べ、ビジネスモデル、IoT(Chambers氏はCiscoの「Internet of Everything」と述べた)、ビックデータとデータの分析などが可能にするアウトカム(成果)中心が重要になると続けた。
Hewlett Packard Enterprise最高経営責任者のAntonio Neri氏
自身が支援するPensandoについて、Neri氏が「人々が生活し、仕事をするのはエッジだ。この分野は今後大きなチャンスがあると信じ、ともに投資している」と語れば、Chambers氏は「ストレージとセキュリティとコンピュートをエッジで行うための技術を組み合わせている」と紹介した。「データとアプリケーションの約75%がエッジで動く」とも述べた。そして、「(Pensandoは)10億ドルに相当する製品を8つ開発したチームだ。どの製品も市場の50~70%を占めるに至った」とMPLSの4人の実績を強調した。
Pensandoは、2019年10月にステルスモードから脱しており、既にGoldman Sachsなどの顧客を持つ。HPEはPensandoへ出資するとともに戦略的提携も結んでおり、最高技術責任者(CTO)のMark Potter氏は、Pensandoの取締役会に名を連ねている。2社間では密な協業が続いているようで、「チームは良い関係で融合しており、誰がHPEの社員で誰がPensandoなのか区別がつかない」とChambersは笑った。
Cisco時代は約180の買収を行ったChambers氏。スタートアップの買収について「新しい市場に入る手段」とする一方で、「(スタートアップと)戦略的提携をどのように進めるかについても学んだ」と述べた。
「スタートアップは才能を集めることができるし、高速に成長できる。投資家は10年見据えて投資する。これは、公開企業では難しい」とChambers氏。Pensandoと戦略的提携を結んでいるNeri氏に対し、「大企業は、革新的なスタートアップと提携して市場を変えることができる」と自らの学びを語った。
なお、Chambers氏はCisco時代に財務危機を何度も乗り越えたという。そのアドバイスとして、まずリーダーは隠し事をせず透明性を持つべきと語る。そして、現実的視点を持つべきとし、「コロナ禍による売上減はどのぐらいか、どのぐらいが変化をしなかったという点で自社の責任か。両方に同時に対応しなければならない」とした。また、「プラットフォームまたは主要なフォーカスエリアに取り組む」なども挙げた。
これから到来するコロナ禍の厳しい時代にビジネスの心構えを語り合った