内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

コロナ禍とDXで大きく変わる社会--デジタル化を浸透させる3つの潮流

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2020-07-15 06:00

 デジタルが浸透し、世界が長い時間をかけて変わろうとしている中で、新型コロナウイルスの感染拡大が社会・経済を揺るがし、その流れを大きく加速させています。今回は、今まさに起こっている社会の大きな変化について考察します。

世の中が大きく変わるとき

 ビジネスを取り巻く環境が大きく変われば、破壊されて消滅する産業もあれば、新しい産業や市場が生み出されることもあります。市場調査会社のインテージが新型コロナ禍の影響によって前年同期と比べて売れた商品と売れなくなった商品(売上金額ベース)を発表しました。まさに、緊急事態宣言下にあった4月13〜19日の1週間分のデータです。

 売れた商品の上位には、うがい薬、殺菌消毒剤、体温計、マスクなどの直接的なコロナ対策用品に加えて、バニラエッセンス、ホットケーキミックス、小麦粉、ホイップクリームなどのパンやスイーツを作るための材料、スパゲティやパスタソースなどの自炊食材、居酒屋などの時短営業を受けてスピリッツ・リキュール類などが挙がりました。

 一方、売れなくなった商品には、口紅やファンデーションなどの化粧品、ゴールデンウィークの長距離移動の減少による酔い止め薬や眠気防止剤、屋外での活動縮小によるスポーツドリングや日焼け止めなどが上位に挙がりました。

 このように、世の中の環境や人々の生活様式が変わると、商品への需要動向は大きく変わります。このような現象、いわゆるビジネス環境の変化は、これまでも、そして今もさまざまな場面で起こっています。新型コロナウイルスは突然やってきましたが、何十年という月日の中で、私たちが気付かないうちに、世の中が大きく変わっているということもあります。今振り返れば、鉄道や自動車が普及する前、人々は徒歩や馬車で移動していました。それにより、街の景色や人々の暮らしは変わり、なくなった職業もあれば、新たに生まれた仕事も多数あります。

 私たちは今、まさにそのような時代の転換期にいるのです。人々は日々の暮らしの中で、世の中が少しずつ変わっていることに順応しながら生きていますので見落としがちですが、10年前と今とでは明らかに違う世界に生きています。

人々の行動様式が変わるとき、なくなるものと生まれるものがある

 今起こっている大転換について、まずは身近な私たちの生活から考えてみましょう。2008年春に日本で初代iPhoneが発売されたましたが、この十数年の間にスマートフォンは、一気に私たちの暮らしの中に入り込んできました。それまで、“ガラケー”と呼ばれる携帯電話はありましたし、家や職場の机の上にはインターネットにつながるPCが置かれていたかもしれません。

 しかし、スマートフォンは、その両方の機能を併せ持ち、いつでもどこでも持って歩ける最も身近な道具であり、必携品といえるほど生活に浸透しています。通勤電車の中で、スマートフォンで音楽を聴いたり、マンガを読んだりという光景もすっかり当たり前になりました。地図アプリでお店を探す、辞書を使わずにGoogleで検索する、写真を撮ってSNSに投稿するといった行動は、十数年前までは当たり前ではなかったのです。

 インターネットで買い物をしたり、出前を頼んだり、チケットを予約したりすることも、駅の改札をICカードやスマートフォンをかざして通ることも、コンビニエンスストアでキャッシュレス決済することも私たちの何気ない日常に溶け込んでいます。

 人々の行動様式やライフスタイルが変わると、需要や市場のニーズも変わります。新たな需要を満たすために、企業は新しい商品やサービスを次々と開発します。ネット小売りのAmazonやタクシー配車のUberといった企業や新しい業態が生まれることもあります。また、それによって新しい仕事が生み出されます。もちろん、その間に道路地図や分厚い辞書が売れなくなったり、改札で切符を切る人の仕事がなくなったりしているということです。

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