ヤプリは9月30日~10月2日、「Yappli Summit 2020」をオンラインで開催している。初日の基調講演では、「企業のDXを推進するために必要なこと」というテーマのもと、企業のDX(デジタル変革)を支援するデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏と、深層学習などの技術を研究開発するPreferred Networks 執行役員・最高マーケティング責任者の富永朋信氏が登壇。モデレーターは、ヤプリ マーケティングスペシャリストの島袋孝一氏が務めた。同講演ではDXの枠組みの他、3人とも小売業界にキャリアがあることから、小売分野のDXについて話し合った。
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏(左)と、Preferred Networks 執行役員・最高マーケティング責任者の富永朋信氏(右)(出典:ヤプリ)
島袋氏:「DX」という言葉について、お二人はどのように解釈していますか。
鈴木氏:DXは社会の課題をテクノロジーで解決していくことだと思っています。私は「DX=CX(顧客体験)+EX(従業員体験)」と考えており、DXには顧客に向けたデジタル化と従業員に向けたデジタル化の両方が含まれていると感じます。
富永氏:20世紀後半にEC(電子商取引)が登場したり、Cookieで顧客一人ひとりをトラッキングできるようになったりしたことから、デジタルで何かするというと、「顧客やマーケティングサイドのこと」といったバイアスがある気がします。ですが企業には、顧客だけでなくモノや従業員など、いろんなデータがあります。そう考えると企業はデータの塊で、「人やモノの流れ」を「情報の流れ」として改めて取りまとめると、イノベーションや効率化の種になるでしょう。一方、「カスタマー系のデータはマーケティング」などと、データを組織ごとに分けてしまうと、企業全体の情報の流れを捉える機運ができにくくなると思います。
鈴木氏:DXには「CXとEX」という軸に加え、「楽しさと効率化」という軸もあり、4つに分けられると思います。ライブコマースなど顧客が楽しめる「楽しいCX」、レジレスコンビニのような「効率的なCX」、ゲーム感覚で仕事ができるようにする「楽しいEX」、会議室に集まる慣習を見直すといった「効率的なEX」があります。これら4つの事象に分けることで、整理しやすくなる感じます。
島袋氏:「DXに取り組むべきなのか」と聞かれたら、お二人はイエスと答えるのでしょうか。
鈴木氏: 90年代にインターネットが登場して、デジタル化はゆるやかに進んできました。そしてコロナ禍で一気に進み、2020年代も加速していくのではないかと思っています。いろんな企業さんのご相談を受ける中で、みなさん「DXしたいんだ」とおっしゃるのですが、DXは手段でしかなく「顧客や従業員にどんな体験をしてもらいたいのか」ということが重要です。ただ、DXの動き自体は今後ますます加速していくと予想しています。
富永氏:「DXした方がいいか」というのは、「電子レンジは買った方がいいか」といった問いに似ています。確かにあった方がいいですが、「電子レンジがあればおいしいものが食べられる」という訳ではなく、あくまでも手段ですよね。「DXした前と後でこんな変化を作りたい」といったシナリオがあればやった方がいいですし、ないのに鈴木さんの会社を訪れてもお互いにとって良くないでしょう。なので「イエスandノー」と言えると思います。
島袋氏:経営層が持つべき意識や、彼らに対する説得の仕方を教えてください。
鈴木氏:経営層の方は年齢が高い傾向にあるので、デジタルは苦手だと感じている方は多いです。プログラミングができる必要はありませんが、トップがデジタルというものの骨格や本質を理解して一緒に動いていかないとうまくいかないと感じます。丸投げは絶対にだめだと思います。
富永氏:ITに詳しくない人に対しては、いかに分かりやすく伝えるかが重要です。加えて、DXがもたらすメリットにはいろんな顔があります。この特性をフル活用して、相手によって伝え方を工夫することがコツだと思います。例えば小売り業で、マスターデータ/受発注のシステム/POSデータをつなぐような仕組みを作ったら、マーケティングにもサプライチェーンにもメリットがあるはずです。この場合、「適切な価格を教えてくれるかもしれない」「仕入れがスピーディーにできるようになる」など、複数の伝え方が考えられるでしょう。