ひとり情シス覆面座談会

第19回:困っているひとり情シスに向けたアドバイス

清水博

2020-10-08 07:00

 以前、2回に分けて座談会の様子を記事にしましたが、最近になって再び読まれており、ZDNet Japanの記事ランキングで上位に入っていました。

 ひとり情シス・ワーキンググループが8月に実施した「ひとり情シス実態調査」でも、ひとり情シスが微増していることが分かりました。しかし、その中身をよく見ると、情報システム担当者が誰もない「ゼロ情シス」から「ひとり情シス」になったり、ひとり情シスから「ふたり情シス」になったりとさまざまでした。

 初めてひとり情シスになった方や二人体制として加わった方の中には、IT技術者の経験がない、社会人の経験が浅いといった理由から戸惑いの声も多いと思われます。そうした方々が座談会の記事を読んでいるのかもしれません。

 また、ひとり情シスは悲惨な状況として伝えられることも少なくありません。ひとり情シス向けと称してFUD(Fear〈恐怖〉、Uncertainty〈不安〉、Doubt〈疑念〉)に近いセールスマーケティング手法も目に付きます。その影響かどうかは不明ですが、ひとり情シスの仕事を敬遠される方が多いと嘆く経営者は少なくありません。ひとり情シスの経験談を聞くことで、実際の仕事内容を知ることができると思います。

 そこで、今回は以前実施したひとり情シス覆面座談会の蔵出し企画として、以下の4つのテーマについて議論の様子をお届けします。今、情報を必要としているひとり情シスの方のお役に少しでも立てれば幸いです。

  1. 困っているひとり情シスに向けたアドバイス
  2. ひとり情シスとIT投資の承認について
  3. ひとり情シスがトラブルの歴史から学んだこと
  4. ひとり情シスがベンダーの営業に求めているもの
座談会に参加したひとり情シスのプロフィール
  • スーパーネオ主任:ITリテラシーが極めて高く、社長に進言できる近い存在で、全社の経営戦略にも意見を求められる参謀格。スーパー(超越)でネオ(新しい)なひとり情シス
  • 旧情シス係長:段階的に情報システム部門の規模が縮小して、最終的に現在の人員の一人になった。元々は、COBOLのプログラマー
  • 初めて情シス君:ひとり情シスで運営していた担当者の定年退職を受けて、後任者となった。2年間にわたる引き継ぎ期間の最中
  • スタック先輩:約20年にわたって派遣型常駐エンジニアを続け、その後、中堅企業の情報システム部門のひとり情シスに転身。フルスタックエンジニアとして現場の第一線で働き続けることが信条
ひとり情シスの覆面座談会の様子(当時)。清水博は左はじ
ひとり情シスの覆面座談会の様子(当時)。清水博は左はじ

困っているひとり情シスに向けたアドバイス

清水:今では経験豊富なひとり情シスの皆さまも、最初は不安だったのではないでしょうか。ひとり情シスの人たちに向けて、経験者としてのアドバイスや伝えたいことがありましたら、ぜひお聞かせください。

スタック先輩:私がひとり情シスで誇りに思っていることは、会社の全ての部門や社員と接する可能性もある大変希少な仕事であることです。多くの人と話をするために、高いコミュニケーション能力が求められます。普段から意識してたくさんの人と積極的にコミュニケーションを図っていきたいものです。

 将来的なスキームや現状の報告などをする場面があると思いますが、その際にうまく説明できるようにビジネス会話を練習する機会を積極的に作っていくことも勧めたいです。それを繰り返すことで、自分の支持者が現れてくるような環境作りを目指してください。そうすると、仕事もしやすくなるという好循環が生まれると思います。

初めて情シス君:セミナーなどに積極的に参加して情報収集することも良いと思います。情報に対して積極的になる姿勢が理想的ですね。私自身、今回の座談会で有益な情報をたくさん得られました。ひとり情シスの場合、カバー範囲も広く、勉強する内容も会社によって異なります。そのため、自分に必要な情報を見極めて、積極的にスキルを習得していく姿勢が重要だと感じます。

 私は元来、内向的な性格でしたが、他者との交流を重ねていくうちに対話にも慣れてきました。外部での経験の副次効果として、社内のユーザーに対しても以前よりロジカルな説明ができるようになりました。ただ、今でも外部コミュニティーに参加するのは苦手です。コミュニティーはお互いに情報を交換することに意味あると思っているので、提供できるものがない自分としては参加に二の足を踏んでしまいます。

スーパー主任:私も初めの頃は勉強不足でうまくいかない時期がありました。要求や要望を周囲が強く訴えてくる環境だったので、食らいつこうと必死に勉強したのが結果的に功を奏しました。反対に、あまり怒られない状況だったら、自分がすべきことがあいまいになってしまうので、自発的に行動するのは難しかったと思います。

 そういった場合は、あえてさまざまな人と突き詰めた議論を行い、日常の業務で困っていることなどを見つけ出し、それが早期に解決ができるか、あるいは解決が難しいかといった具合に可視化していくことが重要だと思います。コミュニケーションの質を高めていくことで、結果としてさまざまな課題を浮き彫りにでき、課題の優先順位の判断も付くようになります。

旧情シス係長:同感です。ひとり情シスではありますが、孤立という意味での“ひとり”になってしまうことは回避すべきだと思います。まずは上司と良好な関係を築くなど、味方を増やすことが大切ですね。

 複数の人材がいる情報システム部門と比べ、ひとり情シスは自分一人しかいないので、その分抱える負荷は大きいのです。幅広い技術も一人で覚えなくてはなりませんし、コミュニケーションの機会も自ずと増えます。さまざまな人々とコミュニケーションを取ることが楽しいと思える心構えは欠かせないと思います。

 私自身、始めは技術者として研さんを積むことを第一としていました。しかし今では、ユーザーと対話する中で問題を解決して喜んでもらえることをうれしく思っています。壁を乗り越えるまでは苦労も多いのですが、やりがいを持って進んでいけると思います。

清水:ヒューマンスキルが必要であるという話は想像以上に多く耳にします。ひとり情シスになったことで、一人で黙々と技術を追求する典型的な技術者タイプに見える方も雰囲気が明るくなったという話も聞きます。リーダーシップを執るタイプに変わったなど、本人でさえも予想しなかった変化をする例も多いようです。

初めて情シス君:ひとり情シスになってまだ日は浅いのですが、私にもこれからさまざまな可能性があると改めて実感しました。これまでは、技術者として研さんを積みたい気持ちがありました。しかし、企業経営のダイナミックさを社内の予算やお金のフローを見て、ITの立場から経営を支えていくことも重要だと感じています。

スーパー主任:ひとり情シスは部門の垣根を越えて会社の多くの人とコミュニケーションを取るため、社内の情報を総合的に把握することができるのです。少しずつ経営層の情報にもアプローチできるようになっています。ひとり情シスの仕事は、単なる情報システム部門の範囲を超えています。

 今後、ビジネスにとってITはますます重要になることからも、ひとり情シスはこれからのビジネスを生き抜くスキルを磨くことができる最良の仕事だと思います。しかし一方で、相談する相手がいないことが悩みでもあり、孤独を感じていることも事実です。

スタック先輩:ひとり情シスは、幅広い技術の研さんを一人で積まなくてはならないので、常に目標設定をして資格に挑戦しながらスキルアップをしています。毎年、年始に自分に必要なスキルを整理し、資格取得のための計画を立てることが強いモチベーション維持につながっているのです。

 資格取得を通して知識の蓄積を続けていくと、ユーザー部門からの信頼感も高まっていくように感じます。勉強して知識を習得すればその分だけ評価されるのは間違いないでしょう。ひとり情シスは、努力に対して正当に評価してもらえる点でフェアな立場にあると思います。

旧情シス係長:ひとり情シスには、望んでなったパターンと、望まずしてなったパターンの2つがあると思います。私の周囲では、前者のタイプの場合は意気込みが強過ぎて空回りしてしまい、想像以上に苦闘している様子があります。

 一方で、後者のタイプではひとり情シスの仕事を客観的に捉え、着実な仕事で成果を上げていることもあるようです。就職した先で、実際に自分の希望通りの職種に就ける人はむしろまれです。多くの方が紆余曲折を経て、結果として会社の重要な仕事を担当していくようになります。自分の希望を第一に仕事を探すのではなく、与えられた仕事に精を出すことも大切な考え方だと思います。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]