2020年はかつてない激動の年になりました。既に進行している地域経済の鈍化に加え、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる大きな難題にも直面しています。この状況に引きずられて経済が低迷しているため、2020年の経済はアジア太平洋地域だけで、2110億ドル(およそ22兆円、※1)の損失を被る可能性があります。これまでの慣れ親しんだビジネス環境はもはや存在しておらず、回復期間中に生まれるビジネス環境もまた違ったものになるでしょう。
※1:格付け会社S&P Global Ratingsによる試算
例えば、移動の制限により、消費者は支出をオフラインからオンラインにシフトしています。当然ながら、EC(電子商取引)や食品配達などのサービスが急速に拡大を続ける一方、オフラインが主戦場のビジネスは悪戦苦闘しています。食料品、家庭用品、家庭内娯楽を提供する企業が増加している一方で、レストラン、アパレル小売業者、ホテルなどは支出額の減少に備えています。このような傾向はこのまま定着するか、あるいはパンデミックから回復してもしばらくの間は残り続ける可能性があります。
過去に成果を上げていたビジネスのアイデアや仮説の多くは、現在および将来において当てはまらないことが明らかになりつつあります。
一方、変わらないことが一つあります。それは、世界で最もアクティブな、デジタルユーザーとデジタル対応ビジネスで構成されている領域で、将来のビジネスチャンスの扉を開く鍵となり得ます。現在、アジア太平洋地域だけで22億1000万人のインターネットユーザーが存在しており(※2)、また57%の企業がデジタルトランスフォーメーションを優先事項と考えています(※3)。
極めて膨大なデータを即座に利用できるなら、企業は市場を全く新しい視点で捉えることができます。これは、以前は考えてもいなかったチャンスをつかむ推進力となり、企業はリスクを最小限に抑え、新しい日常の中で前進するための的確な意思決定を確実に行うことができます。
※2:世界各国におけるデジタルトレンドの統計結果を集計したデータブック「DIGITAL 2019」
※3:The Dawn of the DX Economy in the Asia Pacific
組み込み型アナリティクスにより新しいビジネスパスを図式化する
データ分析の戦略も変わりました。企業は、データを追跡、分析、利用する速度、精度、場所を再定義することが必要となりました。過去の条件に基づいて事前定義されたクエリーは、絶え間なく変化するビジネスの世界では役に立たなくなってしまいます。そのため、企業は社内のデータに関してあらゆる考察をする自由を必要としていますが、立ち止まって「分析を行う」時間はほとんどありません。
組み込み型アナリティクスが、この状況で速度を落とさずに最適な意思決定を行うための鍵となります。組み込み型アナリティクスは、ビジネスユーザーの意思決定となる核心部分に分析の力を投入し、ユーザーのアプリケーション、ワークフロー、情報サービス内で、ビジネスの価値を即座に提供することが可能です。
これにより、企業では、通常は使用されないデータや特定が困難なデータにアクセスして分析することができるため、ふさわしい状況に適切なインサイトを得て、正確な意思決定を迅速に行い、市場で何が起こっているかに合わせてビジネスの対応を加速することができます。
顧客満足度の向上、回復力の維持、企業力の強化
より適切に、より迅速に、より正確な意思決定を行う企業は、顧客にとっての価値を高め、現在および将来にわたるロイヤルティーを獲得できます。
パンデミックによる実店舗での売上減少に直面している食品・飲料(F&B)小売業者の例を見てみましょう。パンデミックの影響を受けて、同社では、オンラインでの販売を強化し、宅配サービスを提供しています。小売業者は、組み込み型アナリティクスを業務の最適化と事業の拡大に役立てる方法が幾つかあります。
新しい購入パターンに適応するために、その小売業者は支店レイヤーの在庫アプリケーションに分析を組み込んでいます。在庫レベルのチェック時に支店長は売れ筋商品のインサイトを得て、その週に何を販促し、何をストックすべきかをより適切に決定できます。企業内で誰かの指示を待つ必要はありません。これらのインサイトにアクセスし、即座に自身で判断することができます。これはより効率的かつ顧客優先の手法で極めて効果的です。
そして、オンライン注文や宅配便の増加に対応した新しい配送車両もあります。配送車両をモニタリングして集中管理センターから移動を指示する代わりに、支店の車両管理ソフトウェアに分析を組み込み、スタッフが配達時間をより細かく制御できるようにしています。その企業では、どのドライバーの手が空くのかを把握できるようになり、配送スケジュールに合わせてジャストインタイムで注文の品を準備できます。支店、そして事業全体が、顧客への対応力を高め、市場の変化に機敏に対応できるようになります。
エンドユーザーレベルでは、小売業者は、消費者が食料品を注文するために使用するアプリに分析を組み込むことができます。注文履歴分析のビジュアライゼーションまたはダッシュボードにより、消費者に人気の食品の再入荷日や特売日、それらの代わりになる他の品目などを消費者に示すことができ、好みに合った新しい料理に興味を持たせたり、必要不可欠な品目の買い忘れがないように支援したりすることができます。
このようにして、F&B小売業者は単に商品を販売するだけでなく、消費者のライフスタイルに影響を与え、意味のあるブランドの相互作用によって生活の質を飛躍的に向上させています。
組み込み型アナリティクスにより、F&B小売店は、天候による混乱や将来の需要により柔軟に対応できます。消費者はオンラインでの注文を続けたり、異なる商品を購入したりするでしょう。どのような変化であれ、組み込み型アナリティクスにより、小売業者は、将来的な国内外の市場に適応するために今日必要なインサイトを即座に得ることができます。
混乱を変革に変える
混乱の年となった2020年は、変革の年になる可能性もあります。特に組み込み型アナリティクスを使用する企業においてはその可能性が高まります。データの秘密を明らかにし、直感的に適切な判断ができるため、これまでは正しかった古い仮説を打破して、この新しい環境の中で新しいビジネスチャンスを見つけたり、格別のカスタマーエクスペリエンスを生み出したりするためのより良い環境に身を置けることになります。そして、全てが収束した後は、より強力で回復力に優れた企業となります。