「コロナ禍に学んだ2020年の取り組みを2021年に強化する」――グーグル・クラウド・ジャパン代表の平手智行氏は、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に向けた2021年の重点テーマに「人工知能/機械学習(AI/ML)」と「デジタルフロントドア」の2つを掲げる。同氏に、2021年の事業方針などを聞いた。
グーグル・クラウド・ジャパン代表の平手智行氏
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的な流行(パンデミック)は、多くの企業に影響をもたらし、従来のビジネスを継続するだけでは生き残ることが難しくなった。平手氏は、「顧客はビジネスの変革を通じたゴールを今まで以上に明確にしている。そのためにアプリケーションのモダナイズ(近代化)を必要とし、そこに向けてデータ駆動型の仕組みを構築し、ITインフラのモダナイズを進めている段階。ITインフラのクラウド化(リフト)のみならず、そこから歩みを進めた(シフト)領域でわれわれの強みを発揮したい」と語る。
平手氏は、具体イメージの一例に、「ポストモダンERP(統合基幹業務システム)」を挙げる。いわゆるSAP ERP(ECC 6.0)のサポート終了にちなんだ「2025年の崖(サポート終了は2027年)」にフォーカスしたものだが、コロナ禍で先行きの不透明さが増す中で未来への洞察を手にするには、ERPに蓄積された従来型のデータ(SoR=System of Record)では不十分であり、顧客との関係性といったデータ(SoE=System of Engagement)を加えた“2層構造”のシステムにモダナイズして、AI/MLによる分析が行える仕組みを持つ必要があるという。
「SoRとSoE、そしてSoI(System of Insight)を組み合わせたデータ駆動型のデジタルビジネスを実現するには、先にデータを活用していくためのデータレイクの構築やデータウェアハウスの整備などが必要であり、従来型の基幹システムでは難しい柔軟性や拡張性などを備えるためにコンテナーやマイクロサービスなどを利用してモダナイズする。多くの顧客がこのフェーズにある」(平手氏)
こうした領域でのテクノロジーソリューションとして同社は、マルチクラウドに対応したワークロード管理のAnthosや、データウェアハウスのBigQuery、大規模リレーショナルデータベースのCloud Spanner、API管理のApigee、データ分析のLookerやデータ管理のDataPortalなどを展開する。平手氏は、これらをマネージドサービスとして提供することで、顧客がDXの目的実現に必要な環境整備に注力できるようになるとし、採用が拡大していると強調する。
「例えば、対消費者ビジネスを手がける小売りであれば、さまざまなデータを通じて一人ひとりの消費者に最適なユーザー体験やユーザーインターフェースを提供する究極のパーソナライズを実現したいと考えている。流通や製造なども含めたあらゆる業種がこの方向性を目指している」と平手氏。代表的な導入事例として、セブン-イレブン・ジャパンのデータ基盤「セブンCENTRAL」を挙げている。
もう1つの重点テーマに掲げる「デジタルフロントドア」とは、平手氏によれば、デジタルベースのワークフローやビジネスプロセス、コミュニケーションやコラボレーションから成る新しいワークスタイルを実現していく概念になる。
2020年は、世界中の企業が新型コロナウイルスの感染対策として在宅勤務やリモートワークに移行したが、コロナ禍以前の「働き方改革」の取り組みと相まって2021年は、新しい働き方が“ニューノーマル”として定着していくと平手氏は見る。
「コロナ禍で人の活動が遮断され、2020年は人と人がオンラインでデータやビジネスをやりとりしていくためのツールやプロセスの導入による“ニューノーマル”へのスタート地点が整備された。人々の活動は非対面化や分散化、リモート化が進み、場所ではなく時間や効率を基準としたデジタル上の働き方になるだろう」(平手氏)
ここでは、Google Workspace(旧G Suite)やChromebookに加え、「BeyondCorp(Googleのゼロトラストセキュリティモデル)のリモートアクセスやエンドツーエンドのデータ暗号化などのセキュリティにより、機密性の高いビジネスもクラウド環境で安全に行えるよう取り組む」(平手氏)とする。同社が「デジタルフロントドア」の役割を担い、顧客企業のデジタル対応力の向上をサポートしていくという。
平手氏は、2019年11月の就任以降、これらの施策を推進するパートナーの拡充にも注力してきたと述べ、2021年も引き続きシステムインテグレーションやコンサルティング、ディストリビューターなどの拡大を図っていく。「われわれのテクノロジーソリューションが顧客のビジネスに貢献するには、ユーザーに関するパートナーの深い理解とノウハウが必須。体制を大幅に拡大している」(平手氏)
最後に同氏は、「2020年はITがビジネスの変革にとって不可欠な存在と強く認識された。2021年はIT環境のモダナイズを通じてデータから洞察を獲得し、デジタル変革のゴールを明確にしてゴールへの歩みを顧客やパートナーと三位一体で進めていく1年としたい」との目標を述べている。