グーグル・クラウド・ジャパンは9月16日、オンラインイベント「Google Cloud Data Platform Day #3」を開催した。キーメッセージとして掲げられたのは「エンタープライズ企業におけるDX促進のためデータ分析・基盤とは」というもの。
午前の基調講演では、同社のスペシャリスト カスタマーエンジニアリング 技術部長の寳野雄太氏と、セブン-イレブン・ジャパンのシステム本部 副本部長である西村出氏が登壇。Google Cloudが目指すものや、セブン-イレブン・ジャパンがGoogle Cloudを活用して構築したデータ基盤「セブンCENTRAL」の概要などが紹介された。
まず、Google Cloudの概要を説明した寶野氏は、DX(デジタル変革)推進やコロナ禍といった昨今の状況下でのビジネスについて「今までは予測可能で連続的だったビジネスも、予測不可能で非連続的な変化に直面している」とし、「ビジネスの施策にアジャイル(迅速)な意志決定をし、リーン、つまり小さく実行する。そして、小さく実行した結果に対してデータを使って『上手くいったこと/いかなかったこと』を検証し、再度仮説を立てて方向修正を行い、新しく再度施策を小さく打つことを繰り返す」というやり方を「不確実性の時代の方法論」だとした。
グーグル・クラウド・ジャパン スペシャリスト カスタマーエンジニアリング 技術部長の寳野雄太氏
ここで鍵となるのがデータの活用だ。同氏はGoogle Cloudのミッションを「企業のDXを加速し、“Data Powered Innovation”でお客さまのビジネスを変革すること」だと紹介。さらに「Googleのミッションである『世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて、使えるようにすること』、つまり『ビッグデータを処理すること』を過去20年以上にわたり実行してきた。Google Cloudは、その『ビッグデータを扱うこと』をDNAとしてお届けするクラウド」だと位置付け、「不確実性の時代に不可欠なデータの取り扱いに長けている」という点を強調した。
セブン-イレブンはGoogle Cloudで新たなデータ基盤を構築
続いて、Google Cloudの機能を活用して新たなデータ基盤であるセブンCENTRALを構築した事例について、セブン-イレブン・ジャパンの西村氏が講演した。同氏は、セブン-イレブンのシステム全般、システム開発/運用、そしてDXをはじめとしたIT戦略全体を推進する役割を担っているといい、セブンCENTRALのプロジェクト全体の責任者でもある。
セブン-イレブン・ジャパン システム本部 副本部長の西村出氏
同社では、2020年度から中長期を見据えたIT戦略に取り組んでいるといい、セブンCENTRALは「さまざまなIT戦略の中で特に重要なデータの利活用を促進する基盤」だという。その目的は「店舗や現場の状況をデータでリアルタイムに把握する」ことだ。
新型コロナウイルス感染症の影響で、セブン-イレブンの店舗における売り上げのトレンドも一変したそうだが、「こういった不確実性の高い状況では、データを活用した判断が欠かせない。このような状況に対し、本部のアドバイザーがデータを元にいち早く把握して対応する」ために、そのベースとなるデータやアナリティクスを提供する基盤として構築された形だ。
セブンCENTRALの導入前は「データとビジネスロジックが一体化し、それぞれがレガシーな環境上で構築されていたため、結果的にデータのサイロ化が進んでいた」という。また、同社にはベンダー依存の体質があったそうで、既存の環境も構築を担当したベンダーがそれぞれ管理、運用していたため、データが必要な状況でも「自分たちで気軽にデータを取り出すことができない」などの弊害も生じていたという。「新しいサービスの企画、開発、ローンチまでの期間が非常に長くなる」こともあって、「変化の激しい現在のビジネス環境において、IT自身がボトルネックになってしまった」ことが課題だったという。
そこで、セブンCENTRALでは「セブン-イレブンの店舗のPOSデータをはじめとした、汎用性や即時性があり、ビジネスに有用なデータをクラウド基盤上に一元管理する」こと、そして「データとロジックを切り離し、APIを経由したデータ提供を行う」ことを目指した。
全国2万店舗のセブン-イレブンのPOSデータをリアルタイムに収集するが、店舗に置かれているストアコンピューターは、これまでのセキュリティポリシーもあってインターネットに接続されていないため、Google Cloudの「Partner Interconnect」を活用して閉域網接続を行っている。また、POSデータは、Google Cloudのストリーム分析「Streaming Analytics」を活用してリアルタイムに加工し、データベース「Cloud Spanner」やデータウェアハウス「BigQuery」からデータをリアルタイムに活用できるようにしているとのことだ。
設計に当たって特に重視されたのが、標準化されたAPIを介してデータアクセスを行うことで、データとロジックを確実に分離することだ。そこで採用されたのがAPI管理「Google Apigee」になる。
また、Google Cloudを選択した理由として、同氏は「サービスの拡張性」「セキュリティ」「オープン性」の3点を重視したと語った。特にオープン性については「過去のわれわれの『ベンダー依存』の体質、体制から脱却したいという思いがあり、マルチベンダーで、ものによってはアジャイル開発の体制も構築していくという上で非常に重要なポイントだ」とした上で、「万一、Google Cloudをやめても別の環境に移行しやすいという点で、移行障壁が大きくないサービスを選んだ」という。
また、Google Cloudが提供する機能の中でも特に高く評価されたのがBigQueryとApigeeだという。「BigQueryはペタバイト級の大規模なデータの処理も可能でありながら、マネージドサービスで処理量に応じた課金のため、初期コストが掛からない。開発、検証時は最小のコストで、分析が本格的に始まったら利用した分だけ課金という点も非常に使い勝手が良い」という。
さらに「BigQueryについては面白い機能がある。機械学習をBigQuery上で実施できるBigQuery MLやデータのコピーが不要で組織をまたいだデータ共有が可能となるストレージがある。データが拡充されていくに従って必要になる機能だ」としており、将来のさらなる機能拡張も見越した上での選択だという。
Apigeeに関しては「データへのアクセスにAPIを限定してデータとビジネスロジックを明確に分離させるという点にも強くこだわった。そのため、クラウドベンダーの選択の上でもApigeeは非常に重要な位置を占めている」という。さらに「Apigeeの機能である認証機能やAPI利用状況の可視化によって『どのデータがいつ誰にどのように使われているか』ということもAPIの利用数を通じて把握できるようになることも非常に大きい」という。
なお、セブン-イレブンの店舗は全国2万店舗ということで、現在の規模に対応できることは当然として、将来の拡張余地についても確認しているそうだ。具体的には「全国3万店舗、1日1000人来店、1人5点の購入」を想定したテストでもリアルタイムのPOSデータ収集が可能なことを確認しているそうだ。構築の成果について同氏は「既存業務が抱えていた課題の解決にとどまらず、これまで発想もできなかったようなさらなる業務の改善や新しいサービスの発展につながると期待している」と語っている。
セブン-イレブン・ジャパンは日本国内のコンビニチェーンの代表的存在であり、古くからPOSデータを活用した意志決定を行っていると紹介されてきた。しかしながら、そうした先進的な取り組みの背後にはさまざまな課題も存在したようだ。
セブン-イレブン・ジャパンおよびセブン&アイ・ホールディングスでは過去に「Oracle Database」や「Oracle Exadata」を導入した事例が紹介されているので、西村氏が語った「データとロジックが分離できていなかった」「ベンダー依存の体質」といった課題は、大規模なオンプレミスのデータベース/データウェアハウス環境にありがちな問題だったと言えそうだ。
そして、新システムがクラウドベース/マネージドサービスベースで構築されたことは、オンプレミスからクラウドへ、というトレンドがいよいよメガチェーンの中核的なデータ基盤にまで及んできた実例として、重要なマイルストーンを刻んだと評価できそうだ。