2020年秋に発表された「Azure Modular Datacenter(MDC)」は、基本的に、トラックの荷台に乗せて遠隔地に配送される、輸送コンテナに収容されたAzureデータセンターだ。MDCでは「Azure Stack Hub」が動いており、ネットワークから切り離された状態でも、衛星通信経由で接続された状態でも運用できる。その構成自体もさることながら、Azure MDCにはほかにもいくつか興味深い点がある。
提供:Microsoft
Azure Global Industry Sovereign SolutionsのゼネラルマネージャーBill Karagounis氏は、過去のコンテナ型ソリューションの取り組みとの違いや、Azure MDCのメリットについて触れるとともに、次のように述べている。「これまで『エッジ的』なニーズを後押ししてきたコンテンツ配信ネットワークの範囲を超えた、劇的にサービス体験を改善する、5G、スマートシティ、エッジコンピューティングなどをサポートするためのインフラの立ち上げが急増している。素早く展開でき、設置面積も小さくて済むデータセンターは、(MDCは)データセンターが利用できない場合や、データセンターの設置に長い時間がかかってしまうような場合に、パブリッククラウドアプリモデルを備えた、高度に最適化されたのエッジのシナリオに対応する機能も持っており、このギャップをうまく埋めることができる」
しかし筆者は、Microsoftがこのタイミングで輸送コンテナを利用した製品を採用した理由は他にもあると考えている。ただしこれは、筆者がさまざまな情報を結びつけて推測した話だ。
Azure MDCは、定義上はエッジコンピューティングデバイスだ。Microsoftは、さまざまなインテリジェントなエッジデバイスを、ゆっくりとではあるが着実に増やしてきた。Microsoftが米国防総省のJEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)クラウドプロジェクトの契約を獲得したことに対するAmazon Web Services(AWS)の主張によれば、Microsoftの製品ラインには劣っている部分があるという。JEDIでは、「戦術的エッジデバイス」を提供するよう求められているが、これはAWSがAzureに対して明確な優位性があると主張しているとみられる領域の1つだ。
JEDIの提案依頼書に含まれていた「戦術的エッジ」デバイスとは、接続性やストレージが限定された運用環境に適したデバイスのことだ。これらのデバイスには、高耐久性ポータブルデバイスやモジュール型の素早く展開可能なデータセンターが含まれる。Microsoftは2020年10月、Azure MDCのユニットは「国防組織や民間部門の組織で利用され始めている」と述べている。
また、MDCの責任者であるKaragunis氏の肩書きに「Sovereign」(主権、国家の自治などを意味し、最近ではデータ主権の文脈でも使われる)という単語が入っている点も興味深い(同氏は筆者に対し、この用語について自由に議論して良い立場にないと話した)。マイクロソフトの求人情報には「Sovereign」に言及しているものも多く、例えばある求人の例では、「Office 365はSovereign市場でのプレゼンスを拡大している。サイバー主権は、特に政府をはじめとする顧客が持っている、パブリッククラウドの管理の容易さと機能面でのメリットを享受しながら、隔離され、コントロールされたクラウド環境を利用したいという需要を反映した新しい製品分野だ」と述べている。
Azure MDCのような製品は、このSovereign市場や「Special Cloud」市場、政府分野に合っているようだ。現時点では、Azure MDCではMicrosoftのハイブリッドコンピューティング製品であるAzure Stack Hubが動いている。しかし、筆者がMicrosoftから2020年に得た情報によれば、今後はそれ以外の選択肢も出てくる可能性がある。Azureの展開地域が世界的に広がっていくことに伴い、Azure MDCのインストールベースも増えていくかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。