前回は、現在の顧客行動の事例をもとに、顧客体験管理に必要な要素を考えていきました。最終回となる今回は、必要な要素である「リアルタイム性」「AI(人工知能)/機械学習」「スケーラビリティー」、そして「セキュリティを含むデータガバナンス」について詳しく見ながら、企業が適切な顧客体験管理を実行することの意義、必要性を改めて考えていきます。
AI/機械学習で施策の効果・効率化を実現する
前回は、顧客体験管理の重要性について、幾つか具体的なケーススタディーを設定して考えていきました。今回はより具体的に企業の実例を挙げて見ていきます。
顧客体験に基づき、コミュニケーションを改善することで企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。それを象徴する例として、ある人材紹介サービス企業の取り組みを紹介しましょう。
その人材紹介サービス企業では、求職者がウェブサイトを見て仕事を選び、希望企業に応募するという形態を取っていました。ユーザーインタビューやA/Bテストを実施し、求職者のニーズを反映するウェブサイト作りを心がけていましたが、ウェブサイトの計測ツールとテストツールがバラバラで、検証結果や成果が把握しにくいという課題を抱えていました。
そこで新たに、パーソナライズ機能と分析・AI機能を備えたプラットフォームを導入し、ユーザー行動を分析してレコメンド方法を変えたところ、応募率が大幅に向上したそうです。
インタビューと計測ツール解析の結果、求職者のこだわり条件として「勤務地(駅)」が大きな要素を占めていることが分かり、仕事内容に基づくレコメンドではなく、検索駅近辺の仕事をレコメンドした結果、大きな成果が得られました。さらにAI機能を活用し、応募者のこだわりを類推してそれに基づく提案を自動的に行うようにしたところ、応募率はさらに高まったそうです。

図1:改善したレコメンド機能イメージ。勤務地にこだわりを持つユーザーが多いことに着目してレコメンド機能を改善。レコメンドエリアの利用率が174%に向上
また、求職者ごとのウェブ行動を時間軸で追っていくことで、応募までのフローを改善し、使い勝手を向上させたことにより、さらに応募数が伸びました。
このケースでは、求職者が求めるニーズに基づき、最適な提案を行うことで、採用したい企業のニーズに応えることができ、結果三方良しとなった例といえます。
統合プラットフォームを活用して効果を最大化する
もう1つは旅行代理店の事例です。その旅行代理店では、それまで店舗での販売が中心だったため、ウェブでの旅行プラン販売に関してノウハウがなく、「ウェブサイトに掲載しておけば売れる」という風潮でした。そのためアクセス解析や顧客分析が十分になされておらず、いい旅行プランでもなかなか認知・購買されないという状況だったそうです。また、大切なコミュニケーション手段であるメールマガジンの配信も外部に委託していたため、必要なときに社内で自由に配信できないという状態でした。
以上のような状態から脱却するため、この旅行代理店では統合分析ツールや顧客DMP(データ管理基盤)、パーソナライズツール、デジタルコンテンツ管理ツールを導入しました。
それによって、(1)広告施策の成果やクリエイティブの評価、(2)顧客のウェブ行動に基づくウェブサイトの改善、(3)コンテンツ制作のサイクルを迅速化、(4)メール配信――という一連の取り組みを通じて、CTR(クリックスルー率)・CVR(コンバージョン率)ともに大幅に向上しました。特に、顧客のウェブ行動をもとにニーズを的確につかみ、その結果をメールマガジンに反映して顧客ごとのレコメンデーションを行ったところ、大きな反響を得たそうです。広告施策の成果も上がりました。
この旅行代理店では、広告施策からコミュニケーションまでのさまざまな接点で、顧客行動の分析結果を反映した結果、大きなビジネスメリットを得ることができた例です。多くのチャネルに分析結果を展開することで、より大きな成果を得られたという好例です。
ただ、顧客体験を活用するには、忘れてならないことが1つあります。それは、データを管理・活用するための仕組みを整えておく必要があるということです。