「1人目のエンジニア」が組織に与える変化とは?

末永昌也 (グロービス)

2021-04-01 06:00

 ゼロから自分でプロダクトを立ち上げたい――エンジニアの多くが感じている思いではないでしょうか。エンジニアの多い企業に所属をしていれば、自分にその順番が回ってくるのはしばらく先になることもあります。それなら、エンジニアのいない企業に入社し、自らエンジニア組織を立ち上げてチャレンジするのも一つの手段でしょう。そんな、1人目のエンジニア、「ファーストペンギン・エンジニア」としてグロービス初のリードエンジニアを務めた末永昌也氏が紹介します(編集部)。

エンジニアが中に入ることの意義

 ビジネススクールを運営しているグロービスは、2016年にデジタル部門を創設しました。プロダクトとしては、ビジネスナレッジの定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」があります。グロービスが法人研修やビジネススクールで教えてきた論理思考や、マーケティング、会計・財務などの知識を、動画で学べるようにしたのです。組織としては、それまで社内にいなかったITエンジニアを4年間で70人以上採用し、デジタルサービスの有効会員は4年間で0人から約14万人に増えました。

 私が入社した当初、エンジニアが社内にいなかったため、外部のツールを利用してこのサービスを開発していました。外部ツールは拡張性が低く、システム上の制約が大きかったのです。そこで、社内開発を行い、よりプロダクトの体験を継続的に高められるよう、第一号のエンジニアとして私が入社しました。

グロービスのプロダクト「GLOBIS 学び放題」
グロービスのプロダクト「GLOBIS 学び放題

 もともとのシステムは、3分ほどの動画を見ると、動画の一覧ページに一度戻ってから次の動画を探して――というような、ユーザーにとって非常に使いづらい状態でした。機能を追加しようとしても限界があり、アップデートもしづらく、システムが事業の成長のボトルネックになっていたともいえます。

 まず私が提案したのは、オフショア開発の会社を通じてベトナムに開発チームを作ることでした。1人だとできることに限界はありますし、外部発注だと結局はユーザー体験を継続的に高めていくことはできません。一定期間、ベトナムのエンジニアチームを確保し、自社のプロジェクトをメンバーとして担当してもらう「ラボ型」を採用することで、私が直接ディレクションを行いました。一気に10人程度の開発チームを組成し、スピードを速められたのはもちろん、予算はそのままでもリッチな開発ができたように思っています。

 通常の請負契約の場合、初期の要件定義や設計などで立ち上がりに時間がかかってしまいます。追加開発や仕様変更の際にもその都度見積もりや調整が必要です。一方、ラボ型であれば期間中は契約しているエンジニアチームを自由に管理することができます。アジャイル開発のスタイルで、要件が固まっていない状態から開発を始められました。入社の1カ月後にはベトナムに飛んでチームビルドを行い、「どういった機能があれば、ユーザーが使いやすいか?」をメンバーとも議論しながら進めることができました。

 こだわったのは動画の視聴体験です。一つの動画を見終わったらスムーズに次の動画に移動できるようにしたり、倍速再生をできるようにしたりという具合に。メインの動画の隣に動画リストを作り、任意の箇所にスキップできる機能もつけました。普段から教育系のサービスを見て学んでいたので、個人的に使いやすい機能、使いづらいと感じた部分を参考にしながら、自社サービスでの機能設計をしていくことができました。技術面はもちろん、柔軟性が高く、ユーザー体験を高めるための工夫に時間を割くことができたように思います。

 エンジニアにとって当たり前の機能でも、ビジネスサイドには盲点であることも多くあります。技術目線でプロダクトをアップデートできるのが、エンジニアが社内にいることの価値であり、ビジネスサイドにも価値を感じてもらえる部分だと感じています。

「GLOBIS 学び放題」の画面。メインの動画の画面の隣に動画のリストを作って、任意の箇所に飛ぶことができる機能を導入した
「GLOBIS 学び放題」の画面。メインの動画の画面の隣に動画のリストを作って、任意の箇所に飛ぶことができる機能を導入した

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