新たなユーザー体験プラットフォーム「DXP」がアフターデジタル時代のデジタルマーケティングを支える

内野奈央子 (クニエ)

2021-03-29 07:00

サマリー

  • DXP(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)は、ユーザーが常にオンラインとつながるアフターデジタル時代において、企業のOMO(Online Merges with Offline)マーケティングを支えるプラットフォームである
  • 従来のデジタルマーケティングでは、ユーザーをオンラインからオフラインへ、あるいはオフラインからオンラインへと誘導することに重心が置かれていたが、オフラインとオンラインが融合した社会においては、オンラインとオフラインの垣根を越えたさまざまなチャネルの相乗効果でユーザーの購買意欲を高めることが重要である
  • 従来のマーケティングプラットフォームを「DXP化」するためには、ユーザー行動をデータで取得する仕組み、取得したデータをつないでユーザー行動を一連のプロセスとして把握する仕組み、複数のチャネルやコンテンツを組み合わせて一連の体験としてユーザーに価値を提供するカスタマージャーニー設計、カスタマージャーニーを実行するためのテクノロジーの4点が必要となる
  • DXPは、CX(カスタマー〈顧客〉エクスペリエンス)向上だけではなくEX(エンプロイー〈従業員〉エクスペリエンス)向上にも寄与するプラットフォームになり得る。ユーザーの購買意欲を高めるために効果を発揮した施策と、施策に関わった担当者情報をプラットフォーム上でひも付けることにより、CX向上に貢献した従業員を評価する仕組みを構築することが可能となる

はじめに

 ユーザーのあらゆる行動をデータで把握できる未来に備えるための新たなマーケティングプラットフォームとして、DXPに着目する企業が増えている。DXPとは、企業がさまざまなチャネルで取得した多種多様なデータをもとにユーザーの行動や感情を横断的に把握し、一人一人のユーザーに合わせた体験を提供することでエンゲージメントを高めていくためのプラットフォームであり、従来の多くのマーケティングプラットフォームと、役割が大きく異なるものではない。

 DXPと従来のマーケティングプラットフォームが異なる点は、前者がOMOマーケティングを実行することに適しているのに対して、後者がO2O(Online to Offline/Offline to Online)マーケティングを実行することに適している点であると考える。ユーザーが常にオンラインとつながる、オンラインとオフラインが融合した社会でデジタルマーケティングを成功に導くためには、従来のマーケティングプラットフォームにどのような要素を取り入れるべきなのか。そのポイントと意義について解説する。

従来型マーケティングプラットフォームを活用したO2Oマーケティング

 ある商品の売り上げ向上のためにデジタルマーケティングを実施する場合、マーケターはまず、ユーザーが最終的に商品を購入する場所が「どこ」であるべきかを決定し、その最終目的地へとユーザーを誘導するためのカスタマージャーニーを設計する。マーケターが作成したカスタマージャーニーをもとに、ユーザーをオンラインからオフラインへ、あるいはオフラインからオンラインへと効率よく誘導することが、従来のマーケティングプラットフォームの大きな役割の一つであった。

 例えば、ユーザーに実店舗で商品を購入させたい場合は、ユーザーに対してまずスマートフォンアプリのダウンロードを促し、アプリを通じてお得なクーポンを配信したり、店舗付近にいるだけでポイントが貯まるようなインセンティブを与えて再度店舗へと足を運ぶきっかけを作ったりといったように、マーケティングプラットフォームのユーザーごとにコンテンツを出し分ける機能を活用することで、ユーザーにとって適切なタイミングでユーザーが必要とするコンテンツを届け、アプリから実店舗へ、実店舗からアプリを経由して再度実店舗へとスムーズに誘導することを支援する。

 このように従来のデジタルマーケティングは、チャネル間の効率的な移動に重点を置いており、そのチャネルがアプリやEC(電子商取引)サイトのようなオンラインチャネルなのか、実店舗や新聞広告のようなオフラインチャネルなのかを明確に区別し、ユーザーにオンラインとオフラインの境界を越えさせることを重視していた。

図1:BtoCにおけるO2Oマーケティングの例 図1:BtoCにおけるO2Oマーケティングの例
※クリックすると拡大画像が見られます

常にオンラインとつながることでオンラインとオフラインの境界があいまいに

 テクノロジーの進化に伴って企業がユーザーに対して情報を提供できるチャネルが多様化し、ユーザーのエンゲージメントを高めるために、どのチャネルを活用すべきなのかの判断や、どのチャネルがユーザーの購買活動に最も効果を発揮したかの検証が非常に困難なものになりつつある。ユーザーの来店履歴などのオフライン上の行動までをもデータで把握でき、ユーザーが常にオンラインとつながることができるアフターデジタル時代においては、オフラインとオンラインの境界があいまいとなっている。

 あるユーザーが企業のSNSアカウントで紹介されていた商品が気になって実物を確認するために実店舗に足を運んだ例を挙げてみる。店舗にはサイネージ広告が設置されており、それを見ているうちに他の商品に目移りしてしまい、最初に検討していた商品とは別の商品を購入することに決めたとする。しかしその商品の在庫が店舗にはなく、最終的に店舗のサイネージ広告からリンクされているECサイトで商品を購入した。このケースのように、ユーザーは商品を認知して最終的に購買行動を行うまでの過程でオフラインとオンラインの間を短時間で何度も行き来して、複数のチャネルを通じてさまざまなコンテンツと接している。

 このような場合は、ユーザーの購買行動を後押したコンテンツが、オンライン上のチャネルで提供されたコンテンツなのか、オフライン上で提供されたコンテンツなのかの判断が難しい。そもそも店舗に設置されているデジタルサイネージといった実店舗にありながらECサイトなどのオンラインチャネルともやりとりできるようなチャネルについては、オンラインかオフラインかの区別が難しく、常にユーザーがオンラインとつながることができる社会においては、それらを区別すること自体に意味がなくなってきている。

 ユーザーの購買意欲を高めるのは、特定のチャネルやコンテンツではなく、複数のコンテンツの組み合わせがユーザーにもたらした「一連の体験」である。ユーザーを突き動かすためには、コンテンツを「オフラインやオンラインのどのチャネルを使って提供すべきか」よりも「ユーザーの購買行動プロセスのどのフェーズで提供すべきか」の方がはるかに重要であり、チャネルはコンテンツを効果的に伝えるための手段に過ぎない。デジタルマーケティングの目的はあくまでもユーザーの購買段階を次のフェーズへと進めることであり、ユーザーをあるチャネルから他のチャネルへと誘導することではない。

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