インハウスデジタルマーケティングのすすめ

第1回:デジタルマーケティングのインハウス化がなぜ必要なのか

里泰志、小倉英一郎、石川祐樹 (クニエ)

2021-02-08 07:00

サマリー

  • デジタル技術に基づく顧客接点の多様化に伴いマーケティング施策は高度化し、それに付随してデジタルマーケティングの重要性が高まっている。併せて、技術的アドバンテージやノウハウを持つ、専業ベンダーにマーケティング業務を外部委託し、技術・効果検証を行うケースが増えており、コストメリットもあり、一時的な施策や実証実験としては有効な施策となり得る
  • 一方で、一時的なつもりのアウトソーシングは、社内にスキル・ノウハウが蓄積しづらく、今後の継続的な施策実行を可能にする体制構築におけるハードルが高いままとなってしまい、結果的に委託先への依存につながりやすい
  • アウトソーシングの常態化は、検討スピードやリソース活用などが委託先ベンダーの要件に依存するため、今後の中長期的なデジタル活用に向けた戦略・施策、体制構築に向けたデメリットとして、「施策実行・検証のスピード低下」「デジタルマーケティング施策の選択肢の減少」などの問題を生じやすい
  • デメリットを乗り越え、デジタル活用に向けた体制構築に向けて、社内のアセットを活用し、マーケティング施策を実行できる状態にするためには、インハウス化が有効な第一歩となる

はじめに

 テクノロジーの進化に伴い、デジタルマーケティングも多様化している。多くの企業においてデジタルマーケティング業務はさまざまな協業者とともに遂行されているが、本来は社内人材で担うべき役割や職能までアウトソースしている例が少なくない。

 一方で、コロナ禍で加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けてデジタルマーケティング業務のインハウス化(内製化)を推進する流れが増えつつある。本連載ではデジタルマーケティング業務をインハウス化するためのアプローチやそのポイントを3回にわたり紹介する。第1回となる今回はインハウス化が求められる課題・背景を解説する。

アウトソーシングが加速するデジタルマーケティング

 スマホアプリ、サイネージやチャットボット、ロボット接客など、昨今さまざまなデジタル技術に基づく顧客接点が浸透し、企業のマーケティング活動に利用される事例が増えてきている。また、顧客接点に限らず、社内のデータ分析や活用などにおいてもデータを統合、蓄積管理するプラットフォーム(データウェアハウス〈DWH〉、データ管理基盤〈DMP〉など)や、それらに基づくアナリティクス、アクションを行うソリューション(ビジネスインテリジェンス〈BI〉、マーケティングオートメーション〈MA〉など)の多様化により、デジタルマーケティング施策はますます高度化している状況にある。

 それに伴い、マーケティングを行う上でのシステム構成や組織体制も複雑化していく傾向にあり、デジタルマーケティング施策の大部分を外部ベンダーにアウトソーシングしている企業の事例も多く見られる。デジタルマーケティングの施策はいまだ先進的な技術を活用しただけのものや戦略的ではあるものの効果が未知数なものなども多いため、企画・設計含め全体的に技術・ノウハウを持つ専業ベンダーにアウトソーシングし、技術・効果検証を行うケースが多い。一時的な技術検証を行う上でのアウトソーシングは、変化の激しいデジタル技術トレンドに合わせたマーケティング施策を自前で構築するよりも、一時的に低コストで実施できるメリットがあるといえる。

アウトソーシング常態化によるデメリット

 一方で、技術検証などが終了した後も一度委託した会社にそのままアウトソーシングすることが常態化してしまう事例が多く見受けられ、それに伴って起こり得るデメリットも多くある。下記にマーケティングのアウトソーシングが常態化した際のデメリットを挙げる。

図1:アウトソーシング常態化におけるデメリット
図1:アウトソーシング常態化におけるデメリット

(1)施策実行・検証のスピードの低下

 日進月歩でデジタル技術は進化し、それに伴いビジネス環境も目まぐるしく変化する中、デジタルを活用したマーケティング施策の実行においても、従来の綿密な事業調査や技術検証を行った上での実行や検討では、市場のニーズや外部環境の激しい変化に対応できないことが多くなってきており、よりスピーディーな実行と効果検証が求められるようになっている。

 しかし、アウトソーシングの常態化により施策実行・効果検証における一連のプロセスにおいて都度委託先をまたぐ形となると、環境変化や経営課題に対してのタイムリーな対応ができず、課題が発生する事例が見受けられる。

 施策計画・実行のフェーズにおいては、その施策が中長期的なものを踏まえた重要なものであればあるほど、委託先への方針調整や合意に向けて、社内担当者と組織上長との間に幾つかのレビューステップを挟む必要がある。また、一方で委託先側への方針伝達・実行依頼を行った後も、委託先社内でも同様に社内調整や組織内部での調整を挟んだ後に施策実行判断、返答を行うことになるため、その分さらに計画・方針策定から実行までのリードタイムが長くなっていく傾向にある。

 また、実行後の効果検証や今後の方針検討フェーズにおいても、実行方針や実行内容が委託先との調整に基づいた結果である以上、委託元のビジネス課題や目的に沿ったものかどうかを検証するプロセスが必要になってくる。また、検証結果を踏まえたさらなる施策案や軌道修正においても委託先への打診・調整を必要とするため、検証に加えて新たな実行方針策定に関してもリードタイムは長期化していく恐れがある。

(2)自社で考え得るデジタルマーケティング施策の選択肢が少なくなる

 長らくデジタルマーケティング施策を外部に委託していると、交渉の手間や取引実績などの関係から、委託外部ベンダーは特定の企業に限定されやすく、他ベンダーへの乗り換えが難しくなってくる(ベンダーロックイン)。

 ベンダーロックインが発生すると、デジタル技術活用やデータ運用の技術ノウハウ、スキル・ナレッジなどの重要な資産は事業会社ではなく委託先側に蓄積されていき、スキル・ノウハウの実体が企業にとって見えなくなってくる(ブラックボックス化)。

 ブラックボックス化が深刻化すると、企業として、マーケティング施策のスキル・ノウハウを構築するハードルはますます高くなる。施策のコスト、品質、リードタイムといった要件は委託先のケイパビリティーに依存するようになり、自社が施策要件において管理・実現できる範囲が限定的になる恐れが生じる。すると、デジタル化によって多様化する顧客接点を活用し強みにしていくデジタルマーケティング戦略が形骸化してしまう。

 また、各施策のマーケティングにおける方針検討や社内の教育・投資なども外部ベンダー方針に依存することになり、将来取り得る戦術も限定的になり、日々変化するデジタルトレンドや競合の動向に対して遅れを取ることにつながりやすい。

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