複雑なワークフローを現場でデジタル化したヨネックスの成功のポイントは? - (page 2)

石田健亮 (ドリーム・アーツ)

2021-06-14 07:00

3.全社でデジタル化スタート--ポイントは「小さな成功」

 この社長室の自律したデジタル化を皮切りに、全社を挙げてのSmartDB導入が進むことになる。

 人財開発部の佐伯理奈氏は、稟議書、報告書に次いで最も早くSmartDBによるワークフローを構築した。

 「紙書類の紛失や対応漏れによるリスクをとにかく減らしたいと考えていたので、すぐに使ってみようと思いました。最初は、失敗したとしても影響の少ない研修報告書から着手しました」

 ポイントは「まずは簡単な業務から始めてみること」である。

 最初は簡単な業務で「小さな成功」を体験することが大事だ。それが次につながり、徐々に複雑な業務のデジタル化に挑戦しようという気持ちが育つ。クイックスタート、クイックサクセスを心がけたい。

 SmartDBによる設計について、「最初は戸惑ったものの、慣れてくると楽しくなって、 そこまで時間をかけずにつくることができました」と佐伯氏は語る。

 研修報告書のワークフロー着手からわずか1カ月でのデジタル化に成功している。

4.自律的なデジタル化を支える「情シス部門の徹底したサポート」

 そして、業務部門における自律的なデジタル化を促すための重要なポイントは、情報システム部門の動きにある。とにかくサポートに徹するのだ。

 「最終的なチェックは情報システム部門が行った上でリリースしています。業務部門では難しい権限管理は情報システム部で引き取りますが、基本的には業務部門主導で開発し、情シスはあくまでサポートに徹します」(高柳氏)

 導入から1年後、ヨネックスがデジタル化した業務は100を超えた。イベント実施報告書、スポーツ用品に刺繍やプリントする加工指示書など、社長室や人事、経理といったバックオフィスにとどまらず、営業、商品部、工場など最前線で戦うフロントオフィス部門までもがSmartDBを活用してあらゆる業務の改善に取り組んでいる。

 ここまで展開できたその秘訣について、高柳氏はこう明かす。

 「ドリーム・アーツのサポートスタイルをそのまま落とし込みました。定期的な相談会の開催、汎用テンプレートの用意、自由に触れるお試し環境、リリース前の最終チェックなどサポートのメニューを増やして業務担当者の苦手意識を極力減らすようにしています。まずは作ってみて、少しでも改善できれば嬉しいし、モチベーションになりますよね。その気持ちが更に大きな改善につながると思います」

5.数字の成果に留まらない--秘訣はデジタルマインドセットの醸成

 SmartDBの導入による効果は工数削減率3割を超え、人件費を勘案すると、年間で数百万円規模のコスト削減につながったという。

 また、社員のマインドが変わりつつあることは嬉しい変化だと高柳氏は言う。

 「自分の業務はどういうプロセスなのかを いったん俯瞰して、それからSmartDBによって実際にデジタル化する――。これには教育的な効果があると思っています。社員一人ひとりがシステム思考を身に付け、自律的な業務改善をしていくことによって、総合的に企業価値が高まっていく。そうしたことを見据えながら、さらに全社に拡大していきたいと思います」

 スピーディな全社展開を可能にしたヨネックス。業務改善が自分たちでできるというモチベーションをうまく生かしながら、社員のスキルアップにつなげている。

 与えられた業務をただこなすのではなく、自律的に業務の改善や再設計ができるデジタルマインドセットを持った「業務デザイナー」が各部門に増えていけば、会社にとって大きな力になるだろう。

(第4回は6月下旬にて掲載予定)

石田 健亮(いしだ けんすけ)
ドリーム・アーツ 取締役執行役員 CTO

1998年、東京大学工学部機械情報工学科卒。東京大学大学院在学中の2000年4月にドリーム・アーツに入社。製品開発部長を経て、新規事業推進室にて現在3万9000店舗以上に利用されている「Shopらん」の企画開発を手がける。2015年1月、最高技術責任者に就任。「ものづくりの力」を強化すべくエンジニアの育成にも注力している。

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