日本マイクロソフトは6月11日、岐阜県教育委員会および慶應義塾大学 SFC研究所と「未来を創る学び」を実現するための産学官連携協定を締結した。
「未来を創る学び」は、地域課題探究型学習とプロアクティブ教育を推進する岐阜県教育委員会が2019年に策定した「岐阜県教育振興基本計画(第3次教育ビジョン)」の一部を示した言葉。同日の記者会見でマイクロソフトの業務執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部長の中井陽子氏は、「先進的な取り組みになる。1人1台のGIGAスクール構想が立ち上がったが、環境を整えて定着させていくのは大きなハードル。多くの教育委員会が取り込めるモデル地区となるように推進したい」と意気込みを語った。
提携を行う岐阜県教育委員会の堀貴雄氏、日本マイクロソフトの中井陽子氏、慶應義塾大学 SFC研究所の鈴木寛氏(左から)
岐阜県教育委員会は、2019年度から第3次教育ビジョンに基づき、段階的なIT環境の整備を推進している。タブレット端末は、当初では生徒が共用する形で使っていたが、2020年度前半には全生徒が使える台数を用意した。同年度後半には県立高校と特別支援学校の約4万2000人を対象に、Surface Go 2の貸与とMicrosoft 365のライセンスも導入した。
2021年度について教育長の堀貴雄氏は、「『1人1台タブレット端末元年』と位置付けている。ハードウェアが整った状態でどのように活用していくかが大切で、1人残さず子どもたちに教育環境を与えたい。コロナ禍でコミュニケーションが不自由な中でも、子どもたちは日々成長している。フィールドワークや対面授業が制限されている現状で、ITが生徒を助ける。教員間の対話も課題の1つになり、ITを利用してコミュニケーション不足を解消したい」との方向性を示した。
今回の産学官連携は、2016年にマイクロソフトが国内展開を開始した「Education Transformation Framework(教育変革フレームワーク)」に基づき、多様な角度から生徒および教員の教育環境デジタル化を目指す取り組みになる。同社は、ITを活用した探索学習(探索から得た経験や情報を学びに生かす手法)を教員に提供することで授業力の向上を図り、多様な視点を授業研究に生かす支援に当たる。
また、自宅学習などで必要なデバイスの持ち帰りについても、文部科学省が策定した「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に配慮したアクセス制御の構築で対応する。その他にも教員の働き方改革を実現するために校務デジタル化や、岐阜県教育委員会の堀氏が挙げた教員間のコミュニケーション不足はMicrosoft Teamsなどを用いたオンライン講習会を実施する予定だ。
三者連携の概要
一連の取り組みは、まず県内高等学校6校に特別支援学校1校を加えた7校をモデル校として実施し、その成果を他校と共有する。授業研究では、6月18日に岐阜県教育委員会が公募した47人の教員と、マイクロソフトや慶応大学が共同で研究テーマを決める「熟議ワークショップ(課題の可視化や解決策の具体的検討を重ねて検討する取り組み)」をスタートさせた。9月に中間発表、12月に成果を発表し、授業研究に反映させるという。
慶應義塾大学 SFC研究所「Society5.0時代の学びと教育・ラボ」代表の鈴木寛氏は、GIGAスクール構想に触れ、「地域間格差を認識している。高校に関してはITを導入する都道府県が少ない。IT教育に積極的投資を行ってきた岐阜県との協定は意義深い」と語った。また、「導入すれば済むという県市町村が点在する。デバイスを整備して個人の学びのデータを取得していくと、公平な個別最適化と公平な学びが実現する」と可能性を指し示した。
三者による授業研究のスケジュール