F5ネットワークスジャパンは6月16日、2月に発表したVolterraの買収に関して報道機関向けの戦略説明会を開催した。
代表執行役員社長の権田裕一氏は、「F5はロードバランサーの会社と認識されていると思うが、ビジネスの一部に過ぎない」とした上で、同社のビジネスが「アプリケーションデリバリー」と「アプリケーションセキュリティ」の2軸から成り、それを総称して「Adaptive Application」(受容性のあるアプリケーション実現のために)と呼んでいると紹介した。
F5ネットワークスジャパン 代表執行役員社長の権田裕一氏(左)とVolterra事業本部 本部長 山崎朋生氏
「提供するさまざまな機能群を特にソフトウェアの開発者にお届けして、ソフトウェア開発者が“非機能要件”と言われる部分の開発に時間を割かず、本来のアプリケーションロジックやアプリケーションそのものの開発に時間をしっかり掛けていける、そういった世界観を実現する」(権田氏)のがミッションだという。
さらに、同社で立て続けに企業を買収していることについて「一貫した戦略の下に買収を続けている」と紹介。2019年3月のNginx買収は「製品機能としては既存製品と重なる部分が多いものの適用範囲が大きく異なる」、2019年12月に買収発表されたShape Securityについては「アプリケーションセキュリティ機能群の高度化/強化という形」だと説明し、いずれも同社が持っていなかった要素を補うための買収と位置付けられるとした。
その上で、Volterraの買収背景については「従来提供していたこれら全ての機能をVolterraという大きなプラットフォーム上でさらにエッジに持っていくという戦略の下に一緒になった」と語った。
F5が行った買収の整理。NginxとShape Securityは基本的には機能群の拡充と位置付けられるが、今回のVolterraはこれら機能群全てを新しい市場であるエッジ向けに提供するための新たなプラットフォームを獲得したという形になっている
さらに権田氏は「同社がなぜエッジにフォーカスしたのか」という点について、「これからのアプリケーションが何を必要とするのか」という観点から説明した。
同氏は、従来型のアプリケーショントラフィックが「中央からユーザーへの下り方向」だったのに対し、5G(第5世代移動体システム)の時代ではアプリケーションが分散化/メッシュ化して双方向のトラフィックが増大するとし、「アプリケーションがエッジにばらまかれていく時代が来る」と予測。こうした新しいアプリケーション環境を包括的に管理・運用できるプラットフォームとしてVolterraを位置付けた。
次世代のデータトラフィックの特徴。ラストワンマイルを広帯域の5Gネットワークが担うようになるとアプリケーションがエッジで処理するデータ量も増大し、バックボーンを介してデータセンターに送るのが難しくなることからエッジでのデータ処理、さらにエッジに展開されるアプリケーション間での双方向の通信、などが増加すると予測される
その上で、同氏は「繰り返しにはなるが、われわれが一貫して取り組んでいるのはアプリケーションデリバリー、アプリケーションセキュリティという世界観を、オンプレミスであれクラウド上であれ、さらに今回のVolterra買収によって加わったエッジであれ、どこにアプリケーションが配備されていても、どれだけ分散されても、われわれがもともとやってきたサービス、そしてさらに分散環境におけるキーワードとなるKubernetesのマネジメントができるVolterraを今後の戦略の大きな軸として展開していく」とした。
続いて、Volterra事業本部 本部長の山崎朋生氏がVolterraの概要説明と、主なユースケースを「製造業・流通業向けIoTゲートウェイ」「通信事業者向けMEC(Multi access Edge Computing)基盤」「マルチクラウド」といった具体例に沿って紹介した。Volterraのプラットフォームは大きく、マネージドKubernetesコンテナーの基盤を立ち上げるためのソフトウェアスタックである「VolStack」、分散ネットワーク/セキュリティ機能を提供する「VoltMesh」、そして運用管理インターフェースとなる「Volterra Console」の3つのコンポーネントで構成され、コンテナー化されたアプリケーションをエッジに分散配置する際に必要とされる機能を統合的に提供する。
Volterraの主要コンポーネントと役割の概要
正直な感想としては、今回示された同社のVolterra買収とそれを踏まえたエッジ市場向け戦略は「抽象度の高いロジックとしては理解できるものの、素直に納得できる感じではない」というところだろうか。同社がこれまでロードバランサー/ADC(Application Delivery Controller)を中核に実現してきたアプリケーション配信とセキュリティの機能と、まずはエッジ向けにマネージドKubernetes環境を提供するVolterraのビジネスとの間にはかなりの距離があるように思われる。
最終的には、Volterraのプラットフォーム上で稼働するエッジアプリケーションに対して同社のADCが提供してきたような高度なサービスを同じように提供する世界が実現するとしても、現時点でその両方を同社がまとめて手がけることでどのようなシナジーが得られるのか、すぐには判断できないというところだろうか。この先同社がエッジ向けにどのようなビジネスを展開し、どのような成果を上げていくことになるのか、しばらくは経過を見てみないことにはこの買収の成否の評価もできないと思われる。