新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行を境に、日本でもリモートワークを採用する企業が増えました。そこで今回は、ワークステーションの主要なユーザーである製造業と建築・建設業の設計/開発部門を前編、後編の2回に渡り取り上げ、より柔軟で高い生産性を追求する働き方に向けた最新の取り組みや、ワークステーションの活用方法を紹介します。前編は製造業の設計/開発部門にフォーカスを当てます。
強固なセキュリティ対策が必要とされる製造業の設計/開発部門
コロナのパンデミックが始まった2020年初頭から現在までに多くの企業がリモートワークを体験し、リモートワークが社員の生産性向上を可能にする働き方であるとの認識が広がっています。いまでは、コロナ後の働き方としてオフィス勤務中心からオフィス勤務とリモートワークのそれぞれのメリットを活用する「ハイブリッド型」、さらにリモートワーク中心へと切り替える企業も出始めています。
しかし、製造業の設計・開発部門に目を向けてみると、エンジニアの働き方をリモートワークにしようとする動きは進んでいるとは言えません。最大の理由は、製造業の設計・開発部門が扱うデータ(設計データなど)の機密性が非常に高く、より強固なセキュリティ対策が必要とされるからです。
これまでも、例えば、製造業の設計・開発部門(のオフィス)に立ち入る際には、取引先、あるいは顧客であっても厳しいセキュリティチェックを受けるのが一般的でした。PCやスマートフォンなどの情報通信機器の持ち込みの制限や、カメラ部分のレンズに目隠しのシールを貼ることを義務づけているところもあります。
このように情報セキュリティを徹底させる必要があることから、製造業の設計/開発部門では大抵の場合、据え置き型のデスクトップワークステーションが採用され、自席でしか使用できない環境がほとんどです。しかも、オフィス内のワークステーションはインターネットなどの外部ネットワークには接続されておらず、クローズドな社内ネットワーク上で運用されています。つまり、設計/開発部門はリモートワークの推進が非常に難しい状況にあるということです。
それでもリモートワーク対応が必要とされる理由
とはいえ、設計/開発部門で働くエンジニアの仕事も、他の業務部門で働く人たちと同様に“ナレッジワーク”に類する作業であり、コンピューター(PC/ワークステーション)があれば仕事ができ、リモートワークが物理的に不可能というわけではありません。
災害対策や業務継続の観点からも、場所に縛られた働き方は有事への耐性が低いワークスタイルといえます。例えば、大きな地震や台風などによってオフィスが被災したり、交通機関がストップしたり、あるいは新たなパンデミックが発生し、オフィスへの出勤、ないしは立ち入りができなくなることはいつでも起こり得ます。そのようなときに、オフィスでしか仕事ができないとなると、設計/開発部門の業務は止まってしまいます。それを防ぐためにも、自宅や最寄りのブランチオフィス、あるいはシェアオフィスなどでリモートワークができる環境/体制を整えておくことが求められます。