ワークステーションの本質

第3回:エンジニアの新たな働き方を支える(後編:建築・建設業編)

大橋秀樹 (日本HP)

2021-07-15 07:00

 前回は、製造業の設計部門で働くエンジニアに焦点を当て、その新しい働き方に向けた取り組みやそれを支援するワークステーションの活用方法を紹介しました。今回は、リモートワークが進む建築・建設業の設計部門のエンジニアの働き方と、そこで必要とされるITデバイスについて考察します。

建築・建設業で加速する設計者のリモートワーク

 前回述べた通り、製造業の設計/開発部門では、自社製品の設計データという極めて機密性の高い情報を扱っているため、リモートワークの導入については検討中、あるいはオフィス内のフリーアドレス化にとどまっている企業が多く、実際に導入や運用を開始している企業はいまだ少数と言えるでしょう。

 一方で、設計業務を担当するエンジニアのリモートワークを意欲的に推進しているのが建築・建設業界です。同業界では、モバイル型のPCワークステーション(以下、モバイルワークステーション)を積極的に導入し、社外でもBIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)を活用できるようにする動きが急速に広がっています。

 建築・建設業でリモートワークが加速する最大の理由は、“現場”があることではないでしょうか。建築・建設業の設計者は、施主との打ち合わせや施工現場に図面やCAD(Computer-Aided Design)端末を持ち込んで作業するといったことを当たり前のように行ってきたわけです。その延長線でBIM/CIM用のワークステーションをオフィスから外に持ち出すことは自然な流れだったのではないでしょうか。

テクノロジーの活用で高まる設計者の生産性

 設計者のリモートワークが積極的に進む中、BIM/CIMなどのテクノロジーの発達も急ピッチで進み、結果として、設計者の生産性が大幅に高められています。

 例えば、従来は紙図面、CADデータ、建築資材の台帳などの相互連携は困難でした。一方で、BIM/CIMでは3Dモデルを中心に各種図面の切り出し、属性情報との連携など、施工やメンテンナンスに必要な情報をその都度3Dモデルから取り出すことができます。

 加えて、BIM/CIMの3Dモデルを作成する手段として、ドローンや3Dスキャナーで収集した現場や構造物の点群データを3Dモデル化してBIM/CIMのアプリケーションに取り込むといった手法も実用化されており、デジタルカメラの連続写真から盛土や切土の量を計算するといったことも行われています。

 このように、建築・建設の現場においてBIM/CIMなどのテクノロジーやモバイルワークステーションを活用したリモートワーク(あるいは、モバイルワーク)を推進することで、設計・施工からメンテナンスに至るまで、効率性が大きく高められているのです。

小規模の設計事務所でもBIMをベースに業務を変革

 BIM/CIMとモバイルワークステーションを活用した設計者のリモートワークは、大手の建築・建設事業者のみならず、中小規模の事業者の間でも広がりを見せています。

 例えば、岐阜県を拠点とする総勢6人の設計事務所、アーキ・キューブでは、代表取締役で一級建築士の大石佳知氏が「小規模な設計事務所こそBIMの効果がある」という持論を掲げています。2008年にBIMソフトウェアを導入した際に、外出先からでも事務所のデスクトップワークステーションにノートPCを使ってリモートアクセスし、BIMソフトウェアを最大限活用できる環境を整えました。さらにモバイルワークステーションも積極的に導入し、コロナ禍においても在宅で設計業務を行い、事業を継続する環境を整えています。

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