データをファンエンゲージとチーム強化に活用--ブンデスリーガがAWSを選んだ理由

末岡洋子

2021-08-17 07:00

 スポーツの世界でデータ活用が進んでいる。欧州屈指のサッカーリーグ、ブンデスリーガも例外ではない。ブンデスリーガを運営するドイツサッカーリーグ(DFL)はデータ活用に当たってAmazon Web Services(AWS)を技術パートナーに選び、選手のパフォーマンス改善とファンエンゲージの強化を図っている。

 DFLは2020年のUEFAチャンピオンズリーグを制したFCバイエルン・ミュンヘン、長谷部誠選手と鎌田大地選手が所属するアイントラハト・フランクフルトなど18クラブを擁するブンデスリーガ1部、そして同じく18クラブで構成される2部の運営とマーケティングなどを事業とする。

 ドイツだけでなく、世界に10億人のファンを持つブンデスリーガにとって、デジタルは重要だ。「古い組織のように試合のスケジューリングだけが仕事ではない。持っている能力を活用してメディア企業のように機能しなければならない」と語るのは、DFLでオーディオビジュアル担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるSteffen Merkel氏だ。

DFL オーディオビジュアル担当エグゼクティブバイスプレジデントのSteffen Merkel氏
DFL オーディオビジュアル担当エグゼクティブバイスプレジデントのSteffen Merkel氏

 ブンデスリーガの公式サイトでは「データ」として、ゴール、ペナルティー、アシストなどの数値が並ぶ。

 例えば、昨シーズン(2020-2021)のゴール数のトップは、バイエルン・ミュンヘンのRobert Lewandowski選手、ブンデスリーガー最多記録となる41得点(29試合)、60分に1本ゴールを決めている。アシスト王は同じくバイエルンのThomas Muller選手で18アシスト、1試合当たり0.56のアシストをした。

 過去の記録だけではない。選手がゴールをすると、シュートを放った後に決まる確率を瞬時に弾き出す「xGoals」も提供する。2020年5月にスタートしたサービスで、ファンに人気だ。

 これらはDFLがこのところ取り組んでいるデータ戦略で実現した「Bundesliga Match Facts」だ。技術面でサポートしているのはAWS。2020年1月に公式技術パートナーとして提携、以来DFLのデータ活用を支援している。

 AWSがDFLと構築したのは、高度な統計プラットフォーム。リアルタイムに統計データを提供するもので、「AWS Lambda」「Amazon DynamoDB」「Amazon ECS」「AWS Fargate」などの技術が使われている。データの保管には「Amaon S3」「Amazon Glacier」を利用する。

AWSが開発したMatch Factsでは、AWS Lambda、AWS DynamoDBなどの技術を土台に、機械学習のAmazon SageMakerが重要な役割を果たす
AWSが開発したMatch Factsでは、AWS Lambda、AWS DynamoDBなどの技術を土台に、機械学習のAmazon SageMakerが重要な役割を果たす

 データは各スタジアムが設置する最大20台のカメラから収集する。毎試合、360万のポジションデータ、1600のイベントデータが生成される。これらがAWSのクラウド基盤に転送、分析され、その結果がリアルタイムに配信される。

 例えば、上記のxGoalsでは、「Amazon SageMaker」を使って選手のシュートがゴールになる確率を割り出す。「XGBoost」アルゴリズムを使って、2017年以降のブンデスリーガでのゴール4万本以上の枠内シュートに対して機械学習モデルをトレーニングした。考慮するのは、ゴールまでの距離、シュートの角度、周囲のプレイヤーの数などの要因だ。シュートの難易度が数値化されるため、ファンは選手のプレーへの理解がさらに深まる。例えば、3月13日に行われたボルシア・ドルトムント対FCウニオン・ベルリンの試合で、Julian Brandt選手が放ったロングシュートのxGoalsは2%だった。

 xGoalsのほかにも、最もプレスを受けた選手(相手選手の数、ボールを保持する選手までの距離、全ての選手の動きの方向を測定して割り出す)、試合中の選手のスプリントの速度などもデータで提供する。なお、2020-2021シーズンで最もプレスを受けた選手に、当時アルミニア・ビーレフェルトにレンタル移籍していた堂安律選手(現、オランダPSVアイントホーフェン所属)の名前もある。

ゴールの確率を割り出すxGoalsの仕組み。選手の速度、ゴールの角度、ゴールキーパーとゴールとの距離、ゴール中央と選手の距離などを要因とする
ゴールの確率を割り出すxGoalsの仕組み。選手の速度、ゴールの角度、ゴールキーパーとゴールとの距離、ゴール中央と選手の距離などを要因とする

 DFLのMerkel氏によると、Match Factsの狙いは3つあるという。(1)競技そのものの魅力を高めること、(2)ファン体験の改善、(3)メディアコンテンツの革新――だ。

 「意味のあるデータをクラブに提供することで、クラブ側は試合の準備ができる。ファン、メディアパートナー、コメンテーターにスタッツなどの情報を提供することで試合の理解が深まり、さらに楽しむことができる。データをもとにテレビ番組を製作することでより良いコンテンツになる」とMerkel氏。

 チームはどのように活用しているのか。バイエル04レバークーゼンのスポーツディレクターで自身もサッカー選手だったSimon Rolfes氏は、「データは試合準備、試合中、試合後で役に立っている」という。「ピッチでのスピードは十分だったか、対戦相手に対して特定のフォーメーションが機能していたか、攻撃ゾーンに入ったときどのような状況だったのかなどが分析できると、いといろなことが分かる」という。「人間は必ずしも客観的ではないが、データは客観的に状況を表してくれる。データを見て意見を変えることもある」とRolfes氏。データが手に入るようになってからは試合の準備はまずはデータから始めているとのことだ。

バイエル04レバークーゼン スポーツディレクターのSimon Rolfes氏
バイエル04レバークーゼン スポーツディレクターのSimon Rolfes氏

 ファンエンゲージ面での効果も感じている。DFLによると、海外のファン1100人を対象としたアンケートでは、Match Factsの情報に価値を感じていると回答した人は97%、Match Factsにより試合をより深く理解できたと回答した人は90%に達したという。このほか、Skyperfect TV、DAZNなどメディアパートナーの視聴データ、「いいね」や共有など直接測定できるものからROI(投資対効果)を見ているという。

 ブンデスリーガは1963年に創設されたが、市場の変化、ファンを取り巻く状況の変化、技術の進化などを受けて変化を図ってきた。現在の戦略は「画面から画面へ」。Merkel氏は「試合を捉えるカメラの画面から消費者が見る端末の画面まで、バリューチェーンをしっかりと網羅する」と説明する。DFLではスポーツプロダクション、デジタルコンテンツ作成などを子会社を通じて全て自前で抱えており、これは他のリーグとの差別化になると見ている。

 AWSとは今後、DFLが持つ1963年からの全ての試合(15万時間)という世界最大規模のサッカー動画のアーカイブ「German Football Archive」のさらなる活用も進める。例えば、メタデータを加えることで、放送局やコメンテーターが簡単に過去のデータを見つけることができるようにする、などのことを考えているという。

 このように、DFLのデータ戦略では機械学習が欠かせない。そしてこれこそが、AWSをパートナーに選んだ理由だという。「Match Factsによりわれわれのアーカイブがもっとスマートになる。デジタルでの体験をパーソナライズできる」とMerkel氏は述べた。

 AWSは、スポーツではブンデスリーガのほか、NFL、F1などでも技術支援をしている。AWS GermanyのゼネラルマネージャーであるKlaus Buerg氏は、「AWSは顧客の問題をイノベーションで解決すること。そのために、われわれはバックワードアプローチをとっている」という。「まず目標を定めて、そこに向かうためにさかのぼって考える。これは、ブンデスリーガでも他のスポーツチームでも、そして他の業界でも変わらない」と続けた。AWSは新機能を次々と追加することで知られるが、Match Factsでも、新しい分析など4~6機能を1年~1年半の間に加える予定だという。

AWS Germany ゼネラルマネージャーのKlaus Buerg氏
AWS Germany ゼネラルマネージャーのKlaus Buerg氏

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