サッカー日本代表のデータアナリストが語る、リアルタイムデータ活用の勘所

末岡洋子

2020-02-06 06:00

 ビジネスにおいて、リアルタイムにデータを使ってサプライチェーンやマーケティングが改善されているように、スポーツでもリアルタイムなデータの活用が進みつつある。サッカーでは、2018年のFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ(W杯) ロシア大会でタブレットが初めて提供された。同大会にアナリストとして帯同した日本サッカー協会 テクニカルハウスリーダーの片桐央視氏が、W杯の経験を含め、リアルタイムなデータの活用ポイントについて語った。

左からデータスタジアムの久永啓氏、JFAの片桐央視氏、データビークルの西内啓氏
左からデータスタジアムの久永啓氏、JFAの片桐央視氏、データビークルの西内啓氏
JFAの片桐央視氏(左)とデータビークルの西内啓氏
JFAの片桐央視氏(左)とデータビークルの西内啓氏

 片桐氏は、2月1日に都内で開催された日本スポーツアナリスト協会主催の「スポーツアナリティクスジャパン2020」で、リアルタイム分析と意思決定をテーマとしたセッションに登壇。統計学者でデータビークル 代表取締役 最高製品責任者(CPO)の西内啓氏とともにパネルディスカッションのパネラーを務めた。モデレーターは、データスタジアムの久永啓氏。

 FIFAは、2018年のW杯直前にサッカー競技規則を改正し、それまでは禁止されていた通信可能な電子機器のベンチへの持ち込みを許可した。これにより、ベンチの外にいるアナリストが情報(映像/画像、プレーデータ/トラッキングデータ)を得て、ベンチ内の監督やスタッフに分析結果などが送れるようになった。

 この改正を受け、W杯では公認タブレットが2台を提供された。1台はベンチ外のスタンドにいるアナリスト、もう1台はベンチにいるスタッフらが使う。テクニカルデスクでは、メインカメラとゴール裏カメラの2台のカメラ映像を活用でき、選手やボールに関する統計情報やデータも表示された。これらをスクリーンショットにし、メモを入力してベンチに送るといったことができるようになったという。

片桐氏が撮影した日本代表チーム初戦となるコロンビア戦でのテクニカルデスクの様子。アナリスト2人とメディカル1人を想定して機器が用意されたという。設備は「スタジアムに行ってみないと分からない」状況だったそうだ
片桐氏が撮影した日本代表チーム初戦となるコロンビア戦でのテクニカルデスクの様子。アナリスト2人とメディカル1人を想定して機器が用意されたという。設備は「スタジアムに行ってみないと分からない」状況だったそうだ
ベンチ側の様子。タブレットはネットワークの問題から有線接続だったという
ベンチ側の様子。タブレットはネットワークの問題から有線接続だったという

 こうした環境を利用できるメリットの1つに、コーナーキックが挙げられた。モデレーターの久永氏が、「コーナーキックになると、(テレビ放送では)シュートシーンが再生されて、セットプレーの並びがすぐに見えない」とコメントすると、片桐氏も「セットプレーは相手のプレーを分析する上で重要。監督(当時の日本代表監督を務めていた西野朗氏)から、『セットプレーは誰が最初に動き出すのか?』と聞かれたが、カメラ映像があったので答えられた」と述べた。これは、それまでのW杯との違いだったという。実際、セットプレーはリアルタイムなデータが「一番活用できるかも」(片桐氏)という場面になっているようだ。

 また、フィールド内のどこにスペースが空いているかの確認、逆サイドのタッチラインなど、フィールド側のベンチにいるスタッフからは見えにくいシーンの共有も役に立っているようだ。もちろん、失点シーンを見てどういう状況だったのかというコミュニケーションもとっているという。

 FIFAのデータ活用の“解禁”を皮切りに、2019年の女子W杯でも同様のリアルタイムなデータ活用が認められ、AFCアジア杯、FIFA U-20W杯などでも可能になった。

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