BMWのミュンヘンオフィスに勤務しているOliver Wick氏は、「技術スカウト(Technology Scouting)」という少し変わった肩書きを持っている。その仕事は、風変わりで驚くべき新興技術の世界を広く調べて、BMWのビジネスモデルを改善できる可能性がある技術を見つけてくることだ。
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Wick氏の毎年の目標は、「BMWにイノベーションをもたらすこと」だという。また、同氏が果たしている役割は、BMWが競争の一歩先を行くための取り組みとして、組織全体で新技術の発見を促進するために長年にわたって発展させてきた戦略の一部にすぎない。
同社は世界中のあちこちに「テクノロジーオフィス」を設けており、そこではWick氏のような専門家が、重要なイノベーションを発見し、自動車の製造からスマートシティサービスに至るまでの、幅広い応用事例に関するトレンドレポートを作成している。
BMWの技術スカウトチームは、「Tech Radar」と呼ばれるソフトウェアを利用している。これは研究開発や、特許や、市場や、ベンチャー企業などから情報を収集し、分析を行うためのカスタムソフトウェアで、注目に値する新興技術についての総合的な情報を提供し、その成熟度を評価する機能を持っている。
技術スカウトが有望なイノベーションを発見したら、その分野のスタートアップや大学とネットワークを構築し、概念実証を行う。概念実証の結果にゴーサインが出ると、関連する技術が同社の基幹事業に移転されることになる。
ほかにもBMWは、技術発見のプロセスを拡大するために、優れたアイデアを持っている小さな企業が技術を売り込む機会である「スタートアップガレージ」を設け、そこで選ばれた企業と契約を結ぶことにしている。
また同社は、社内向けにもアクセラレータープログラムを設けている。Wick氏は米ZDNetの取材に対して、「調達部門の誰かが調達とは関係のない優れたアイデアを持っていれば、それを加速させたいと思っている」と話した。
Wick氏は現在、量子コンピューティングをBMWのビジネスモデルに取り込もうとしている。この技術は2017年にTech Radar経由で見いだされ、同社の最高レベルの専門家が関心を持った。BMWは、スタートアップや研究者に呼びかけて、自動車のセンサーの配置や、製造時の材料変形などの問題を解決できる量子アルゴリズムを募集するクラウドソーシングコンテストを実施している。
「私たちの目的は、従来の手法では見つけることができない企業や組織、個人を見つけることだ」とWick氏は言う。
新技術の発見に投資しているのはBMWだけではない。イタリアの大手電力会社であるEnelも、技術の発見に積極的に取り組んでいる企業の1つだ。同社は現在、世界の10都市に「イノベーションハブ」を開設しているが、これらはすべて、Enelのビジネスに役立つ技術を持つスタートアップや小規模な組織を発見するために設けられた。