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グラファー、スマホ活用で行政デジタル化を促進--利用自治体は100超に

田中克己

2022-02-24 07:00

 スマートフォンを活用した行政サービスのオンライン化が進み始めている。スマートフォンの普及と通信回線の高速化、ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス(UI/UX)の改善など、オンライン化に向けた環境が整ってきたこともある。

グラファーの代表取締役で最高経営責任者(CEO)の石井大地氏
グラファーの代表取締役で最高経営責任者(CEO)の石井大地氏

 そんな行政サービスのデジタル変革(DX)をクラウド型サービスで支援するグラファーのユーザー(自治体)は、2019年3月の2団体から2020年3月に6団体、2022年2月には100団体超へと増える。自治体は全国に約1700あるので少ないように見えるが、カバーする市民は3000万人超になる。コロナ禍における行政サービスのオンライン化は感染リスクを軽減し、窓口での待ち時間を短縮するなど、市民の利便性と職員の効率化を両立させる。

 グラファーは、代表取締役で最高経営責任者(CEO)の石井大地氏が一人で立ち上げた新興企業。リクルートで新興企業への投資や買収合併(M&A)を担当していた同氏は、起業を考えていた際に「行政向けは今後伸びていく領域」という投資家の意見を聞き、まずは行政手続きをオンラインで案内する「Graffer 手続きガイド」の開発を思いついたという。

 これは、地域住民が引っ越したり結婚したりする時に、スマートフォンを使って簡単な質問を答えることで、どんな手続きや書類が必要で、どの受付窓口に行けばいいかなどがわかるもの。神奈川県鎌倉市が2018年11月に導入すると、「市民の約6割がサービスを知っているなど、その反響の大きさに驚いた」と石井氏は振り返る。他の自治体からは導入に関する問い合わせや業務フローを変えた窓口の視察といった要望が次々に舞い込んだという。既に60以上の団体が導入したという。

 その後、「Graffer スマート申請」「Graffer 窓口予約」「お悩みハンドブック」などのサービスメニューを増やしていく。2020年4月にリリースしたスマート申請は、スマートフォンから行政の手続きや申請を行えるサービスで、マイナンバーカードから氏名や住所などの基本情報を自動的に読み取り、電子署名から決済、申請までをワンストップで行える。70超の団体が採用する。

 福岡県北九州市は2020年11月にスマート申請を導入し、手始めに約150の手続きを移行。その後は職員自らが申請フォームを作成し、その数は月約200件にも及ぶ。自治体には数千種類の手続きがあり、災害の発生などで新たな申請フォームが必要になっていく。そのオンライン化は容易ではないし、開発を外部に委託すれば費用や時間がかかる。スマート申請はそうした課題を解決するというわけだ。

 石井氏によると、行政手続きのデジタル化を推進するには目標の明確化が重要になる。新しい市民サービスによって職員の業務をどこまで効率化し、市民の利便性をどれほど改善するのかといった具合だ。その目標値を決め、達成できなかったらどこに問題があったのかを分析し、あるべき姿に向けて改良・改善を繰り返していく。

 従来のようにITベンダーがシステムを納品したら終わりでは、継続的な改善を見込めない。だから、職員自らが容易に開発できる仕組みが必要になる。広島市が2020年10月に公開した被災者支援ナビは、被災者がスマートフォンなどで質問に答えると、受けられる支援が分かる仕組みになっている。新たな災害が発生しても、職員自らが必要な支援策を作成・公開できるようになっている。

 もう一つの事例は、横浜市による新型コロナウイルス感染症に関連する事業者への融資手続きだ。以前は事業者が窓口に殺到して密集状態になったり、手続きに最大で3時間もかかったりするケースがあったという。そこで、申請に必要な書類や押印など業務フローを見直し、説明に従ってデータを入力できるようにした。入力項目も減らして、申請時間はわずか1~2分になったという。認定書をデータでダウンロードできるようにしたことで、わざわざ市庁舎へ受け取りに行く必要もなくなり、窓口の混雑も解消する。こうした手続きの数を段階的に増やしていき、オンライン申請の利用率は2020年5月の5%から2021年2月に30%以上になったという。

 2022年1月にリリースしたお悩みハンドブックの累計利用者は、サービス開始から19日で10万ユーザーを超えた。当てはまる悩みにチェックをつけていくだけで自分にピッタリな公的支援などが分かるサービスで、ソーシャルメディアでも話題になったという。

 石井氏は「(2022年は)窓口関連のサービスを作っていく年になる。サービス間を連携し、職員の効率化につなげる」とサービスの開発計画を明かす。サービスの使い勝手も改善していく。例えば、スマート申請は月80件以上の機能追加やUI/UXの改良・更新を図っている。

 将来的には、蓄積してきたデータを生かした業務改善や施策立案といった事業展開もあるだろう。厳重な管理が求められる自治体向けシステム市場の中で、グラファーがどんなポジションを取れるのか注目したい。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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