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売り上げ1兆円を目指す富士ソフト、カギは新規事業と生産性向上に

田中克己

2024-04-08 07:00

 富士ソフトが売り上げ1兆円の事業規模を目指し、本格始動する。

 代表取締役 社長執行役員の坂下智保氏は、2月14日の2023年度決算説明会で、「これまでの10年間に、売り上げを倍以上に伸ばした」と、準大手の目安と言われる3000億円の事業規模に達したとする。「今後は売り上げだけではなく、収益向上を図る両輪をしっかり回し、トップSIer(システムインテグレーター)として認められる存在になる」という。

富士ソフト 坂下智保氏
富士ソフト 坂下智保氏

 その1兆円の達成目標時期を、坂下氏は「期限を切っているわけではない。10年くらいの時間軸で、1兆円を見据えてのビジネスを展開していく」とし、まずは2024年度にスタートした5カ年中期経営計画の最終年度の2028年度に売上高を4350億円、営業利益を450億円にするという。

 年平均成長率の売上高7.7%、営業利益10.9%をそれぞれ達成するには、既存事業を成長させる一方、新規事業の拡大と生産性向上をどう図っていくかにある。

「中期経営計画 2028 」 の計画概要(出典:富士ソフト)
「中期経営計画 2028 」 の計画概要(出典:富士ソフト)

 同社は組込・制御ソフト、業務システム、クラウドサービスの3つの事業を構成し、ざっくりと言えば、それぞれ1000億円の規模になる。各事業の成長を見込んでいるが、坂下氏が最も需要拡大を期待しているのがOT(Operational Technology)×ITだ。例えば、IoTを駆使して製造業の工場から人やモノの情報を収集、分析し、ラインを最適化するソリューションをパッケージ化したり、サービス化したりすること。いわば工場のスマート化だ。

 各部門がこうしたスマートビジネスを創り出すには、「自社だけではできないので、ユーザーとの協創によって開発したりもする」と坂下氏。外部コンサルティング会社を使っての仮説とフィジビリティー(実現可能性)を行って、マーケットをあぶり出すこともある。候補に挙がっているのは目下のところ、スマート工場とスマート物流、ローカル5G、大規模言語モデル(LLM)、運用保守、デジタル教育、ロボットSI、働き方改革、介護の9つになる。

 2024年1月に設置したNEXTビジネス部が各部門の新規事業を後押しするという。同部がCoE(センターオブエクセレンス)という形で事業の立ち上げに必要な準備やノウハウを集め、現場に展開し、インキュベーションをする。坂下氏は、「形がはっきりしたらプロジェクト化する」と説明する。

 例えば、ローカル5Gを活用したソリューションは、実装の技術的な研究からユースケース作りとなり、2024年下期からビジネス展開を始める予定だ。このような種をまき耕すために、今後5年間に100億円超を用意する。同氏は「これまでの倍以上の投資になる」とし、さらに5年間に2000億円超のキャッシュインを見込んでおり、その半分を合併・買収(M&A)などに使うことを計画しているという。

 その一方で生産性の向上を図り、収益を改善していく。具体的な数値目標は、営業利益率を2023年度の6.9%から約4ポイント改善し10.3%にすること。1人当たりの営業利益(単体)も、2022年度の133万円から2023年度に156万円、さらに2028年度には310万円に引き上げるという。坂下氏は決算説明会で、「60部門のうち3分の1が既に300万円以上になっている。残りの多くが3年以内あるいは5年以内に達成できる」と見通しを明かす。

 施策の1つは一括請負などによる価値の適正化を図ること。業務システムでは、提案し見積もる成果型を増やす。同氏は「完全なスクラッチは少ない」とし、例えばMicrosoftのクラウド基盤などを使ったり、「Salesforce」などのSaaSを使ったり、複数のサービスを組み合わせることで「提供する価値を価格に転換できるようにする」という。「人月ビジネス+成果型」ということだろう。

 加えて、社員1、協力会社1の割合のプロジェクト推進体制を、4対6、3対6にする。坂下氏は「まだ明確ではないが、そうしたこともしていく」とし、「社員をとがった技術や新たな市場開拓にも生かす」と述べた。

 生成AIの活用も推進するが、同氏は「生産性がぐっと上がる目算を具体的に立てる段階ではない」と断った上で、「開発のやり方が大きく変わるだろう」と予想する。例えば、仕様作りからテストまでの開発工程の順番が変わったり、下流工程に時間をかけなくなり、精度の向上に振り向けたりする。「作るシーンは減るが、止まらないなど安定運用やセキュリティの確保などのハードルが高くなり、そこも担う」(同氏)

 2011年に社長に就いた坂下氏は、リーマンショック後の回復や新型コロナウイルス感染症が流行する中で、若手エンジニアらを戦力化するサイクルを作り上げるとともに、顧客の裾野を広げてきた。「顧客数は2、3倍ではなく、何倍にも増えた」という。年間の取引額が10億円以上の大口顧客も2014年度の10件から、2023年度には27件になる。坂下氏は「人材育成と技術力を磨き、顧客基盤を作ってきた」と強調する。同社によると、社員の平均給与は602万円だが、ベースアップの予定はないという。公表されている大手のSIerに比べて、おおよそ150万円少ない。ただし、2023年度と2024年度にそれぞれ4%超の昇給率を実現しており、2025年以降も同レベル以上の昇給率を検討していく予定だという。

 同社はさらなるエンジニアの増員も計画している。「10人でやっていた仕事が5人にできるなど生産性は向上するが、5人でやるテーマが増える」という。入社するエンジニアのリテラシーのレベルが上がり、開発方法が変わっていく。1兆円に向けたM&Aなど、坂下氏の次なる戦略に注目したい。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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