調査で読み解くマルチクラウド化の現状と課題

インフラ運用管理ツールにおけるOSS商用版の利用実態

花尾和成 (HashiCorp)

2022-03-14 06:00

 現在、世界のさまざまな業界、規模の企業がマルチクラウドの利用を進めています。本連載は、HashiCorpが実施した調査結果をまとめた「クラウド戦略実態レポート(State of Cloud Strategy Survey)」から、企業のクラウド活用状況や今後の利用方針、課題点、クラウドの成功に関連する主要なテクノロジーなど、さまざまな洞察を解説していきます。第5回は、インフラ運用管理ツールにおけるオープンソースソフトウェア(OSS)の商用サポート版の活用実態を取り上げます。

 昨今は、OSSが人気を博しています。ただ、ITチームが実際にどのようにOSSを導入して運用しているのか、また、なぜ多くの組織が無償ではなく有償である商用版を選択するのかについては、あまり深く知られていません。調査結果から、この理由を探ってみましょう。

 回答者の大多数は、インフラ運用の仕組みをOSSで構築し、自分たちでその利用と維持管理をしていることが分かりました。また、商用版を購入している回答者の多くは、サポート、コンプライアンス、管理機能およびソフトウェアの利便性を高めることを目的としています。そして、昨今の新型コロナウイルス感染症の大流行の影響が、多くのチームのOSSへの依存度をさらに高めたと考えられます。

インフラ運用管理ツールでも人気のオープンソース

 調査では、開発者、ITオペレーター、担当者が、どのような働き方を望んでいるのかを知るため、「インフラ自動化ツールについて、現在使用している、または使用する予定のツールの種類は何ですか?」という基本的な質問をしました。ここでは、プロビジョニング、ネットワーキング、セキュリティ、アプリケーション導入の4つのカテゴリーと、それらについて次の5つの選択肢を用意しました。

  1. Build from scratch and run it myself:自社でゼロから構築し実行する(フルスタックDIYツール)
  2. Build on open source and run it myself:オープンソースで構築し、自社で実行する
  3. Use open source as a service:オープンソースのマネージドサービスを利用する
  4. Buy commercial tools, run it myself:商用版を購入し、自社の環境で実行する
  5. Buy commercial tools as a service:マネージドサービスの商用版を利用する
回答結果 回答結果
※クリックすると拡大画像が見られます

 回答から、3つの考察が得られました。1つ目は、回答者がインフラ運用における要素の中でも、特にセキュリティの観点からクラウド対応の商用ツールを使用する可能性がはるかに高いことです。恐らく彼らは、商用版を契約することで得られる、提供元からのエンタープライズクラスのサポートを評価していると考えられます。

 2つ目は、プロビジョニングに関しては、回答者はOSSを構築して自社で実行する方が、はるかに快適で安心感を得られるということでした。担当者の多くがこの技術分野における知識を有しているため、組織はこの分野で管理とコンプライアンスの課題に直面する可能性が少ないと推測していると考えられます。

 3つ目は、全てを最初から構築することを選ぶ人がほとんどいないことです。インフラストラクチャーの足場としてOSSを利用している回答者は、その4倍近くに上っています。

 ほとんどの組織が、商用ソフトウェアよりもOSSを多く使用する傾向を裏付ける調査結果でした。オープンソースコミュニティーは、注目に値するイノベーションの源であり、OSSのライセンスはそのコミュニティー内ではまたたく間に広がります。そのため、GitHubのような人気のあるサービスは、多くの開発者が開発をスタートする場となっています。

 しかし、OSS支持者であっても、「OSSは万能薬ではない」と言うでしょう。ITリーダーは、責任を持って組織内でどのようにOSSを使用すべきかのガイドラインを制定し、徹底する必要があります。

 これらのベストプラクティスは、リスクを最小限に抑えるためのガードレールを維持しながら、コミュニティー主導のプロジェクトから得られる価値体験を促進する必要があります。また、知見が豊富な組織は、主要なテクノロジーが実稼働の展開に重要な役割を果たすようになるため、担当者がベンダーとの商取引関係を模索することを奨励するでしょう。

 こうしたことは、ほとんどの組織がOSSを採用し、使用し続けている理由の一つです。他方で一部の組織は、OSSから利用を始めて、後日にニーズが高まった時に商用版を購入します。つまり、全てのオープンソースのプロジェクトが商取引関係を保証するわけではないのです。

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