本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、IIJ 代表取締役会長の鈴木幸一氏と、NTTデータ 代表取締役社長の本間洋氏の発言を紹介する。
「地球儀を相手にビジネスをせよ」
(IIJ 代表取締役会長の鈴木幸一氏)
IIJ 代表取締役会長の鈴木幸一氏
インターネットイニシアティブ(IIJ)会長の鈴木幸一氏は、2022年4月1日に入社した新入社員の入社式の挨拶で冒頭のメッセージを送った。新入社員だけでなく、ビジネスパーソン全てに伝えたいメッセージだと思ったので、「今週の明言」として取り上げたい。
鈴木氏は挨拶の中で、インターネットについて次のように説明した。
「インターネットは1968年頃、米国で、『愚連隊エンジニア』と言われているような変わった若者たちが取り組んでいた。薄汚く、何をして食べているのか分からないような人々だったが、非常に優秀で、世界を変えるという妄想みたいなことを抱いていた。米国の国防省がそこにお金を出していた」
「最近はウクライナ侵攻の映像をいっぱい見ていると思うが、その時代、われわれはベトナム戦争の様子を画面越しに見ていた。米国で、戦争に行きたくない若者の早道は軍の仕事に就くことで、国防省のプロジェクトに参加できると徴兵が免除される。良心的徴兵忌避者となるわけだが、多くの人は戦争が終わった後も『逃げた』とされ、故郷に帰れなくなる。そういう人たちが初期のインターネットを担ってきた」
「そもそもインターネットというのは軍の技術で、大陸間弾道弾のようなミサイルでどこかを攻撃されても国中の通信がつながり続けるにはどうすれば良いのかを考えた時に、脳の構造をモデルにして、一箇所が切れてもどこかしらつながることができるという、インターネットの基本的構造が作られた」
そのインターネットを1991年に日本へ持ち込んで来た当人の見方だけに興味深い。そしてIIJの話から新入社員へのメッセージを次のように送った。
「IIJという会社は創業から7年目に米国で公開したが、今も東京に本社がある日本の会社のままだ。皆さんが知っているような外資のIT企業はみなIIJより若い会社だが、なぜIIJは彼らに比べて(売り上げが)ゼロひとつ少ない会社でとどまってしまったのか。それは事業の目をたかだか1億ちょっとのマーケットである日本国内に向けて仕事をしてしまったことにある」
「若い頃から、世界に目を向けてビジネスを地球儀で考える必要があった。世界に目を向けたFacebookなど皆さんご存知だろう。IIJは技術的には非常に秀でているが、未だにグローバルなマーケット、国際事業は売り上げの10%に満たない。そういうことを踏まえて、地球儀を相手にビジネスをするような思いを一人ひとりが持つと、会社全体が変わるのではないかと思う。ぜひ皆さんのような若い方が頑張ってほしい。皆さんがそういう目で自分のポジションを見直すともっと面白い世界になるし、インターネットでインフラの事業はどこまでも広がっていく」(写真1)
「地球儀を相手にビジネスをせよ」ーー鈴木氏ならではの魂のこもったメッセージである。
写真1:「地球儀を相手にビジネスをせよ」(写真は筆者所有の地球儀)