デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質は新しいテクノロジーの採用だと考える人が多いが、全英ゴルフ協会(R&A)の最高技術責任者(CTO)のSteve Otto氏によると、成功の鍵は別の場所にあるという。
「デジタルトランスフォーメーションとは文化の変化であり、データがビジネスに内在するようになるものだと思う」。Otto氏はこのように語る。「データは業務を推し進めるものではなく、容易にするものだ。これはビジネスとしてのR&Aにもゴルフというスポーツ全般にも当てはまる」
Otto氏がこのデータ主導のビジョンを実践しているR&Aは、ゴルフの運営組織であり、世界的に有名なゴルフトーナメントである全英オープンの主催団体だ。同選手権は先頃、スコットランドのセントアンドリュースで開催された
このコースで使われているテクノロジーの舞台裏ツアーで、Otto氏は米ZDNETに対し、同氏のチームとテクノロジーパートナーであるNTTデータが全英オープンでの3万2000回のショットからデータを収集し、さらなるDXを促進するデジタルツインを作り出していると説明した。
コース上のデータプロフェッショナルたちが、各ゴルファーの全ホールにおけるルートを記録してタグ付けする。このチームが4日間の大会でキャプチャーし、タグ付けするコンテンツは、合計約70時間分だ。
その成果は目覚ましいものだった。プレーヤーがホールアウトしてから1分以内に、各プレーヤーのホールへのルートに関する情報がメディアに公開される。
そのデータ主導のコンテンツの一部は世界中のテレビ画面に表示され、他の情報は「ShotView」の更新に使用される。ShotViewは、ゴルフファンが全英オープンの全プレーヤーの現在地と各ホールの統計データを閲覧できる専用ウェブページだ。
ShotViewのデータは「NTT DATA Wall」にも配信される。これはコース上に設置された巨大な高解像度スクリーンで、コースで起きていることの全体像とともに、ホールへのルートにおける個々のプレーヤーの進行状況を伝える。
このほぼリアルタイムのデータ表示により、ファンは常に情報が得られ、最新の状況が分かる。
だが、こうした情報集約的な活動の最も重要な影響は、注目度が高く大きなプレッシャーがかかる全英オープンの開催週に得られた教訓が、他の51週におけるゴルフというスポーツ全体の発展を促していることかもしれない。
コースでの結果の視覚化は初期のデジタルツインイニシアチブによって実現されており、これがゴルフの観戦とプレーの今後の改善に寄与していくはずだ。
Otto氏によると、マッピング、レンダリング、アルゴリズムを使用してShotViewテクノロジーを実現するこのデジタルツインは、ゴルフの未来の基礎を築くことを目指しているという。
デジタルツインを構築するために、Otto氏のチームはコースと選手のパフォーマンスを事細かにマッピングした。
オープンソースのLiDARでコースをスキャンしたデータと、ウォーキングスコアラーやコース上のセンサーなどのソースから取得したデータを組み合わせて、コースの状況とプレーヤーの進行状況を示すグラフィカル描写を作成する。
そのデータはクラウドで処理し、コースの画像のレンダリングには、Epic Gamesが開発した3Dコンピューター・グラフィックス・ゲーム・エンジン「Unreal Engine 4」を使用する。
アルゴリズムによって各ホールへの主要なルートに優先順位が付けられて、ショットとスコアに関する非常に興味深いグラフィカル描写がShotViewとDATA Wallに表示される。