ヴイエムウェアが日本進出20年--「おもちゃ」扱いの仮想化はクラウド時代を創造

國谷武史 (編集部)

2023-04-13 07:00

 ヴイエムウェアは4月12日、日本法人の設立20周年を記念した懇談会を都内で開催した。米国本社も創業25年目を迎え、懇談会では仮想化技術発展の歴史などを回顧しつつ、これからの取り組みなどを紹介した。

 VMwareは米国カリフォルニア州パロアルトで1998年に創業し、日本には2003年に進出した。最初はわずか数人体制で東京・恵比寿のシェアオフィスに拠点を設けた。日本市場で仮想化技術の意義を啓発しても、当初は著しく処理性能が向上したPC向けCPUの余力を使う程度の「おもちゃ」扱いをされる状況だったが、2000年代中盤からサーバーへの適用でハードウェアを効率的に利用できる意義が認識されると導入が加速。適用領域をITインフラ全体に広げるとともに、現代では当たり前のクラウドコンピューティングも仮想化技術の発展なしには普及し得なかっただろう。

ヴイエムウェア 代表取締役社長の山中直氏
ヴイエムウェア 代表取締役社長の山中直氏

 懇談会であいさつした代表取締役社長の山中直氏は、「金融担当営業として入社したが、最初は仮想化が怪しい言葉だった」と回顧。同氏は、NECからヴイエムウェアへ転職して在籍16年目になるとのことで、「長い間日本のお客さまやパートナーと伴走しているが、とてもエキサイティング」と自社のビジネスへの思いも吐露した。

 山中氏は20年間を“4つの章”で振り返った。第1章はハードウェアにロックインされたサーバーに“自由”をもたらしたこと、第2章は「Software Defined Data Center」(SDDC)をテーマにデータセンター全体に仮想化を広げたこと、第3章はSDDCによってハイブリッド/マルチクラウドが実現されたこと、第4章は現在から未来としてハイブリッド/マルチクラウドを最適な形で利用していくことだという。

サーバーを起点に仮想化をあらゆるレイヤーや領域に広げてきた
サーバーを起点に仮想化をあらゆるレイヤーや領域に広げてきた

 同社としての仮想化技術の展開は、サーバーからストレージ、ネットワーク、デスクトップに広がり、サイバーセキュリティなどを取り込みつつ、現在ではコンテナーやKubernetesなどによるアプリケーション領域にまで多様化している、山中氏は、同社が一貫して仮想化技術を用い、物理的なITリソースを抽象化して論理集約を図ることでITリソースの最適化し、また、ワークロードの稼働環境を柔軟に選択できる自由度を高めてきたと強調した。

 2023年から先の方向性は、上記の第4章の位置付けから仮想化をデータが生成される場所に近いエッジ領域にも広げること、そして、ミッションクリティカル領域へSDDCを展開することだという。前者では、現場発のデータをクラウドで効率的に利用するためにも中間に当たるエッジ領域での情報処理の必要性が高まっており、ここではAI技術の利用も始まっていることから、仮想化を用いて効率的なエッジコンピューティングの実現を支えていく。後者では、例えば、通信事業者の基幹通信ネットワークで5Gへの対応に伴うオープン系技術の本格的な採用が検討されており、金融でも同様の動きが見られている。

 山中氏は、一貫して仮想化技術の意義を広めてきた同社の基本的な役割は今後も同じであり、この先も顧客やパートナーと伴走しながらこの役割を全うしていきたいと抱負を語った。

 また、現最高経営責任者(CEO)のRaghu Raghuram氏と同期入社で、日本法人の立ち上げメンバーとして在籍20年になるパートナー技術本部長の名倉丈雄氏も、「初期におけるサーバーへの仮想化技術の適用は極めて難易度が高いものだった」と振り返った。それでも仮想化技術に注目した当時の先進的な顧客と伴走しながらその有効性を示してきたことで、仮想化技術普及の礎を築いた。

ヴイエムウェア パートナー技術本部長の名倉丈雄氏
ヴイエムウェア パートナー技術本部長の名倉丈雄氏

 特に、2011年の東日本大震災で多くのデータセンターが被災したことにより、事業継続や災害対策の観点から仮想化技術を活用するクラウドの必要性が大いに注目されたとする。これが転機となって、仮想化の適用領域がデータセンター全体に広がり、IaaSが本格的に台頭し、現在におけるハイブリッド/マルチクラウドの実装へつながっているとした。

 名倉氏も山中氏と同じく同社が一貫して仮想化技術の意義を広めてきたとしつつ、「個人的にはITを道具だと捉えおり、道具を生かして社会の持続的な発展を実現していくことにこれからも取り組みたい」と話した。

ヴイエムウェアの戦略的投資領域
ヴイエムウェアの戦略的投資領域

 懇談会ではゲストとしてIT調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)でシニア・アナリストを務める入谷光浩氏がITインフラと仮想化技術の歴史を紹介した。アナリスト歴19年という入谷氏は、自身の経歴がまさにITインフラや仮想化技術の歴史と重なるとし、初めて携わった調査テーマが仮想化技術だったという。

アイ・ティ・アール シニア・アナリストの入谷光浩氏
アイ・ティ・アール シニア・アナリストの入谷光浩氏

 入谷氏は、コロナ禍やDXを通じて今後のクラウドがITだけにとどまらない社会全体のデジタルインフラに位置付けられていくと予想し、エッジに仮想化技術を適用するなどの変化が生じていると解説。さらに、企業でサステナビリティー(持続可能性)が重要なテーマになり、多様な人材に選択や活躍の機会を提供する必要性が高まっているとも指摘し、一例として出産や育児などにより離職した女性の復職をITで支援するヴイエムウェアの取り組み「VMware Sakura」などに注目しているとした。

初期の仮想化はエンジニアにとって遊びのような技術だったが、結果としてハードウェアの制約を取り払いエンジニアに自由をもたらしたと入谷氏
初期の仮想化はエンジニアにとって遊びのような技術だったが、結果としてハードウェアの制約を取り払いエンジニアに自由をもたらしたと入谷氏

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