UiPathは7月13日、同社イベント「AI-Powered Automation Summit」に合わせて記者説明会を開催し、AI戦略を発表するとともに、RPAツール「UiPath」と生成AIを活用した企業のパイロット事例を紹介した。
UiPath 代表取締役 CEOの長谷川康一氏
説明会に登壇した代表取締役 最高経営責任者(CEO)の長谷川康一氏は「RPAを知った時以上に、生成AIに衝撃を受けている」とし、「生成AIを中心としたAIと、RPAを中心としたオートメーションをかけ算することで、われわれができなかったこと、やりたかったことを実現できる」と期待を見せた。
同社は、AI戦略として(1)オートメーションのプラットフォームに生成AIをはじめとしたAIを搭載する、(2)日本が最重要拠点の1つ。現場に神宿るユースケースを世界へ――を挙げる。
UiPathが掲げる「AI-powered automation(AIで強化された自動化)」では、OpenAIの「ChatGPT」などの生成AIや、自社やベンダー、ユーザー独自の特化型AIを用いる。自社のソリューションをAIで強化するとともに、インテグレーションサービスなどのインフラストラクチャーを自動化基盤で利用できるようにする(図1)。
※クリックすると拡大画像が見られます
こうした体制により、同社は(1)開発生産性の向上、(2)製品の強化、(3)生成AIを活用した価値の創出――を目指す。
(1)では、経理業務の転記作業を簡素化する「UiPath Clipboard AI」、自然言語からワークフローを作成する「Wingmanプロジェクト」を提供する。現在プレビュー版を提供しているClipboard AIでは、請求書、注文書、メールなどの文章をコピー&ペーストボタンで業務アプリケーションに転記できる。現在開発中のWingmanプロジェクトでは、自動化したい作業をテキストとして入力するとワークフローが生成され、開発者の生産性向上が見込まれる。
(2)では、「UiPath Process Mining」などの課題を発見するソリューション、「UiPath Document Understanding」などの課題を解決するソリューションにAIモデルを掛け合わせる「総合力」で勝負する。
(3)では、生成AIによる価値の創出をパターン化し、顧客の事例作成を後押しする。現存するパターンには、UiPathで収集されたデータを生成AIが読み取り、メールの文章や要約文に変換する「リーダー・ライター」、生成AIがデータを分析し、出力された項目をUiPathが自動化する「分析/実行者」などがある。
説明会では、複数の企業がUiPathと生成AIを活用したパイロット事例を発表した。
SMBCバリュークリエーションは「Automation for Every Person」というビジョンのもと、生成AIを用いてあらゆる人々がUiPathを使いこなせるようにすることを目指している。同社は2019年、SMBCグループにおける生産性向上のノウハウを顧客へ提供するために設立された。同グループでは、UiPathなどを用いて2022年末時点で約600万時間を削減している。
生成AIの特徴について、代表取締役社長の山本慶氏は「意図を捉えた自然な会話ができる」「自然言語とプログラミング言語の変換ができる」ということを挙げ、「やりたいことは分かっているが、プログラミング言語への変換方法が分からなかった人に対し、生成AIが間に入ることで、やりたいことをやれる状態が出来上がるのではないか」と所感を述べた。
同社は「Automation for Every Person」というビジョンのもと、プロトタイプ製品「デジタルアシスタント」を約1カ月で開発。同製品では、非デジタル部門のユーザーが効率化したい業務を入力すると、UiPathにおけるワークフローや開発手順が表示され、運用でエラーが発生した際はエラーの解説や解決方法が示される。同社が保有するノウハウ、FAQ(よくある質問)、ベストプラクティスなども提供し、開発初心者でも「最後まで作りきる」ことを支援する。
システムインテグレーター(SIer)のパーソルプロセス&テクノロジーは、生成AIとUiPathを活用してコンタクトセンターで働くオペレーターのウェルビーイング(肉体的、精神的、社会的に満たされている状態)を目指している。ワークスイッチ事業部 事業部長の小野隆正氏によると、同社のオペレーターは「業務/心理的な負荷」を感じている傾向があるという。
PoC(概念実証)では、システム利用に関する従業員からのメールでの問い合わせ対応にUiPathと生成AIを活用し、社内情報を参照して適切に回答する「事実性」、質問に答える「有効性」、簡潔に答える「簡潔性」を検証した。
小野氏は「今後はガバナンスを整備する必要があるが、言い換えると技術的には可能であり、生産性を抜本的に向上させるソリューションになると分かった」と手応えを述べた。今後はルールの策定を行い、社内/顧客向けに本番利用することを目指している。
具体的には、問い合わせメールをUiPathで振り分け、「Microsoft Azure」上のChatGPTが回答文を作成する。オペレーターの役割は、回答文の内容を確認して返信し、問い合わせに対する回答をFAQに反映させてAIを“育てていく”ことになる。
小野氏は「オペレーターの毎日の仕事は、メールボックスの確認から始まる。膨大な数のメールを振り分け、問い合わせ内容を読み、FAQなどを確認し、分かりやすい文章を作成するということをやっているが、(UiPathと生成AIの活用により)出社したら『こうした問い合わせが来ていたので、回答を作っておきました』という状態から始まる」とオペレーターの業務/心理的な負荷軽減に期待を寄せた。