「DXを推進している日本中、世界中のCIO(最高情報責任者)たちは、パナソニックグループの成果をうらやましいと思っているはずだ。『PX』(Panasonic Transformation)は、大きな壁を乗り越えることができた」――。PX推進の旗振り役であるパナソニックホールディングス 執行役員 グループCIOの玉置肇氏は、この1年にわたるPXの取り組みを、こう自己評価した。
パナソニックホールディングス 執行役員 グループCIOの玉置肇氏
PXは、パナソニックグループのDX戦略であり、各事業のDX支援と、グループ全体のIT経営基盤の底上げを図り、事業の競争力の強化に向けて、働き方やビジネスのやり方を含め変革し、経営のスピードアップを実現することを目指している。同社は、2021年5月にPX準備プロジェクトを発足。同年10月からPXプロジェクトを本格的に始動し、まもなく2年目が終わろうとしている。
では、玉置氏の言う「世界中のCIOがうらやましいと思うこと」とは何か。それは2023年3月に、「PX:7つの原則」をグループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏らグループの経営幹部全員が参加した会議によって制定し、それを経営陣の約束として、参加した経営幹部全員がコミットしたことである。
「全役員が集結して2日間にわたる合宿形式のグループ経営会議を3月初旬に行い、PXに関する徹底討論をした。これまで経営幹部が集まり、ITの話をしたことはなかった会社である。話がまとまらないだろうと思い、事前にドラフトを作っていった。だが、結果として私が使ったドラフトの文字は一文字も使われない内容になり、10項目を想定していたものが7項目に集約された。楠見が自ら校正し、作り上げた。私が作ったドラフトにはITの文字ばかりだったが、(楠見氏によって)まとめられた7つの原則には、ITやデジタルの文字が一切使われていない」(玉置氏)
経営層全員DX達成を宣誓している
会議の終了時点で参加した経営幹部全員が、7つの原則の制定とコミットに署名し、全社のアジェンダとして、また、全員の活動に位置づけた。この署名は、大阪・門真のパナソニックホールディングス本社にある楠見氏の部屋に置かれているという。
玉置氏は、興奮気味にこうも語った。
「7つの原則で示した高い水準は、経営幹部全員がコミットをするか、しないかで雲泥の差になる。私の経験からもほとんどの会社が不可能だと考えていたし、パナソニックグループも、楠見がいくら旗振りをしても難しいと思っていた。だが、経営幹部全員が集まり議論し、7つの原則が作り上げ、これにコミットしたことは、DXの推進において、まさに大きな壁を乗り越えた出来事。CIOやCDO(最高デジタル責任者)にとって、この取り組みがどれほどありがたいのか伝わらないかもしれないが、ここまで経営陣がやってくれたことにとても感謝している。(PXが)いけるのではないかと思った瞬間だった」
同社が策定した「PX:7つの原則」は、プロセス、データ、人材という点にフォーカスし、以下の7つの項目で構成している。
- グループの重要な経営資源であるデータを、ステークホルダーの「幸せの、チカラに。」つなぐ
- 経営者がデータの利活用と業務プロセスに責任を持つ
- 「お客様を誰よりも理解する会社」になるために、顧客接点の多様性を活かし、データを徹底利活用する
- 業務プロセスを絶えず進化させ競争力の源泉とする
- システム化の前に、現場の業務プロセスの現状を把握し、標準化の範囲を明確にする
- 標準化の定義を明確にし、経営者がコミットする
- 現場も含めたグループ内で、データ・テクノロジーを利活用できる人材を増やし支援する