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AIで古代の巻物を分析--2000年前の噴火で炭化した文書を解読する - (page 2)

Erin Carson (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2024-03-08 07:30

 「実際に広げるものについて知る前に、何かを完全に広げるという概念を生み出した」とSeales氏は語る。

 2004年、ミシガン大学の古典学者Richard Janko氏から、この上なくふさわしいものが見つかったと聞かされたSeales氏は、ついに広げるべきものを見つけた。

 それがヘルクラネウムの巻物だ。

「紫」を意味することが明らかになったギリシャ文字πορφύραcなど、複数の文字と何行もの文章が、Vesuvius Challengeコンテストの参加者Luke Farritor氏によって抽出された。提供:Vesuvius Challenge
「紫」を意味することが明らかになったギリシャ文字πορφύραcなど、複数の文字と何行もの文章が、Vesuvius Challengeコンテストの参加者Luke Farritor氏によって抽出された。
提供:Vesuvius Challenge

過去を掘り起こす

 現代において、ヴェスヴィオ火山の噴火と聞いて思い浮かべるのは、自らの世界が終わりを迎える中で身を寄せ合って灰に埋もれる人々の遺体かもしれない。これは魅惑的であると同時に悲劇的であり、少し不気味でさえある歴史的な出来事だ。

 当時の唯一の記述は、ローマの作家で弁護士だった小プリニウスが手紙に記したもので、人々はパニックに陥り、「厚く黒い雲」が洪水のように地面を飲み込んだと描写されている。

 「死を恐れるあまり、死なせてほしいと祈った人もいた」と小プリニウスは記している。

 雲が薄くなり、日光が差し込むと、小プリニウスは雪を思わせる灰の中にすべてが深く埋もれていることに気づいた。

提供:Vesuvius Challenge
提供:Vesuvius Challenge

 ポンペイの西約10マイル(約1.6km)に位置し、ヴェスヴィオ火山にさらに近い町であるヘルクラネウムでは、かつてジュリアス・シーザーの義父が所有していた別荘が、大量に降り注いだ灰と瓦礫に埋もれた。その屋敷の図には、巨大な中庭、庭園、アーチが描かれている。重要なのは、この別荘がパピルス文書の蔵書が保管されていた場所でもあるということだ。

 約65フィート(約19m)積もった高温の灰は、パピルスに最悪の影響を与えると思えるかもしれないが、実際には巻物が熱によって炭化し、空気による自然劣化から守られた。

 発掘活動は1700年代にようやく始まった。農民が井戸を掘っていたときに大理石を掘り当てたことがきっかけで、発掘が開始され、未開封の巻物が600巻以上見つかっている(Seales氏は、ヘルクラネウムパピルスの正確な数を特定するのは難しいと述べており、その理由として、研究者が断片や巻物の一部分を数えている可能性があることを挙げた。中にはその数を最大1800巻としている研究者もいる)。

 巻物は、バチカン図書館の学者であるAntonio Piaggio氏の手に渡った。Piaggio氏は、保存状態の良い巻物をいくつか広げる機械を発明したが、常に成功したわけではない。

 広げられた巻物の内容は主にエピクロス派哲学であったため、McOsker氏は残りの巻物も同じ性質のものである可能性があると考えている。古代の世界に対する学者たちの見方が一変することはないとしても、当時の文献が不足していることを考えると、新たに200冊の書物が出てくれれば、かなりの成果になるかもしれない。

「実験」ではない

 現在、巻物は欧州の複数の場所で保管されているが、その大半はイタリアのナポリ国立図書館にある。

 当然のことながら、ほとんどの人は保管室に入って2000年前のもろい巻物を手に取ることはできない。Seales氏は資金提供、他のプロジェクトでの成功、学術外交を通じて、何年もかけて説得し、巻物への接近を許された。

 腹腔鏡検査などの画期的な外科技術の心得があったSeales氏は、コンピューター断層撮影を使って巻物をスキャンし、スキャン内容をまとめ上げるソフトウェアを開発したいと考えた。

 Seales氏は2005年、オックスフォード大学の講義で自身の考えを紹介する機会を得た。その頃には、同氏とチームはポリウレタンの球体に埋め込まれたパピルスのサンプルをまとめて、それをスキャンして仮想的に広げることができていた。

 「あれはまるで、初めて社交界に出る女性がドレスを着て階段を降りてきて、『一緒に踊りましょう』と言っているかのようだった」(Seales氏)

 反応は良好だったが、保存修復家たちには、実験を行うかのように受け取られてしまった。「実験」とは、これほど希少で古いものに使うには下品な言葉だ。

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