In Depth

AIで古代の巻物を分析--2000年前の噴火で炭化した文書を解読する - (page 3)

Erin Carson (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2024-03-08 07:30

 4年間にわたる懸命な努力と関係構築、多少の計略により、Seales氏とチームは2009年、フランス学士院を訪れてパピルスの最初のマイクロCTスキャンを実行することになった。

 「恐れおののくと同時に信じられないほどの興奮を覚えた」とSeales氏。巻物は小さく、炭のように見えた。「これが古代の巻物の1巻全体だと言われたが、とても小さな物体にすぎなかった。炭化して縮んだせいだ」

 ようやく巻物をスキャンできたことは大きな成果だったが、Seales氏はソフトウェアをチームの思いどおりに機能させるのに苦労した。

 ヘルクラネウムの巻物の解読がすぐにできそうにないなら、別の目標を探す必要があった。

トラブルシューティング

 Seales氏がヘルクラネウムの巻物の解読に20年間取り組んでいると聞くと、毎日オフィスで勤務して、その作業だけに集中しているような印象を受けるかもしれない。

 実際には、チームが巻物の解読に取り組めない時間や、他の文書をデジタルスキャンして広げる作業をしていた時間がかなりあったが、最終目標に近づくうえで、そうした作業が何らかの形で役立った。

 Seales氏のチームは2006年、ヘブライ語で書かれた「コヘレトの言葉」の中世の写本を広げた。1年後の2007年にSeales氏が参加したチームは、ヴェネツィアを訪れて、ホメロス作「イーリアス」の最古の完全な写本をデジタル化した。

Diamond Light Sourceのスキャンケース内でスキャンされるヘルクラネウムの巻物。提供:EduceLab
Diamond Light Sourceのスキャンケース内でスキャンされるヘルクラネウムの巻物。
提供:EduceLab

 「これまでの過程で関わってきたプロジェクトの1つ1つが、私の研究者としての信頼を少しずつ築き上げてくれた。また、博物館や図書館の意思決定者にアプローチして、会話する知識を身に付けることができた」とSeales氏は語る。同氏はパリの研究者たちと十分に会話できるレベルのフランス語も習得した。

 それでも2012年頃には、ヘルクラネウムの巻物の解読作業は少し停滞していた。それからの1年間、Seales氏は長期休暇を取得し、GoogleのCultural Instituteの客員研究員としてパリで1年を過ごした。これにより、自信を取り戻して、新しい人々と新しいアイデアに触れる機会を得た。ちょうどGoogleがAI研究機関のDeepMindを買収しようとしていた頃のことだ。

 その頃から、Seales氏は粒子加速器内でスキャンを実行するというアイデアを追求するようになった。それによって、画像の解像度の大幅な向上が見込まれる。

 巻物の解読における技術的な課題は依然として困難だったため、心機一転できたことは好都合だった。

 主な問題の1つは、セグメンテーションと呼ばれるものだった。巻物は非常に小さいが、スキャンは詳細だ。最初はケンタッキー大学の学部生としてSeales氏と一緒に作業したテクニカルリードのStephen Parsons氏は、部分的に崩れたパピルスの層とスキャンで視認できる繊維の網状組織をデジタルで分離する試みについて説明した。Parsons氏はそれをなぞらえて、丸太の断面のような見た目と表現したが、少し砕けているという。

 もう1つの課題は、パピルスに書かれたインクを実際に読み取ることだ。巻物の内部を見るのに最適な画像技術はX線マイクロCTだ、とParsons氏は語る。問題は、インクを読み取れるほどのコントラストがないことだ。

 ヘルクラネウムの巻物は、基本的にオイルランプのすすで書かれている。これは化学的にはほぼ純粋な炭素であり、パピルスも化学的には炭素なので、チームは灰色の上に重ねられた灰色を見ているということに気づいた。

 他のプロジェクト、たとえば2016年のエンゲディ文書は、死海文書に次いで古いモーセ五書(聖書の最初の5書に関連する)の巻物で、これをデジタルでうまく広げられたことが、Seales氏のチームにとって大きなマイルストーンとなった。この文書には鉄を含むインクが使われており、X線で明るい点が浮かび上がる。

 Parsons氏らは、それでも検出可能な差異の存在が考えられるとの仮説を立てたという。同氏はそれをアスファルトに黒く塗られた線にたとえた。機械学習モデルを訓練すれば、このインクを認識できるようになるかもしれない。

 そのアイデアを、チームで作った巻物や崩れ落ちたヘルクラネウムの巻物の断片で試し、巻物の奥深くにある層の2つの文字を読み取れる段階に達するまで、何年もかかった。

 「その瞬間にはっきりした。開発や改良に何年もかかったとしても、このアプローチは最終的に実を結ぶだろう」とParsons氏。その1年後に、実際にそうなった。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]