現在多くの企業が事業戦略の中核にDXを据え、一部で成果も現れ始めている。ただし、ほとんどの企業は組織づくりやデジタイゼーション、デジタライゼーションはできても、DXの本質である「デジタル技術によるビジネスモデルの変革」まではたどり着けていないのが実情である。
DXで着実に成果を上げている企業とそうでない企業は、一体何が違うのか。本連載では、「DX成功の鍵は実効性が備わった“専任の推進組織”にある」と考え、DX先進企業のDX組織が持つミッションや機能、設置の背景などを紹介し、機能するDX推進体制の構築と運用のポイントを探っていく。
今回は、2026年に創業150周年を迎える国内有数の老舗企業、サッポロホールディングス(サッポロHD)のDX推進体制を掘り下げる。
2018年から4年間のBPRでまず足場を固める
サッポロHDは、1876年に創業。祖業である酒類事業に加えて、食品飲料、不動産の3つの事業を展開。人々の暮らしや社会に潤いをもたらし、その豊かさに貢献することを目指している。
企業としての歴史と実績と知名度を持つ一方で、DXについては、はばからずに言うと決して先頭集団の企業群に属しているわけではない。サッポロHDのDX戦略では、「中期経営計画(2023~26)」の中で、(1)「DX・IT戦略の推進体制構築」、(2)「組織・人財マネジメント整備」、(3)「育成人財の活躍、環境整備・運営」という3つの重点施策を掲げる。
また、それらを実現するための(1)「DXとITの組織・機能融合による多面的な業務シナジーの創出」、(2)「計画的な育成・採用・活用によるグループ全体の人財レベル向上 DX・IT基幹人財200人育成」、(3)「ビジネスプロセス変革、新規事業分野の開拓を創出する新たな環境整備」という3つの具体策が記されている。実際に同社が本格的にDXに着手したのは2022年である。
23-26中期経営計画に記されたDX戦略
ただそれは単に着手が遅かったということではなく、そこに至るまでに2018年からDXの前段としてビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)を実施し、4年間のデジタルを活用した業務プロセス改革という助走の時期を置いているが故である。その結果、ロボティクスプロセスオートメーション(RPA)などのデジタルツールを活用することで、4年間で36万時間、200人工(にんく)の業務効率化を達成。そこで初めて、2022年の年初にサッポロHD 代表取締役社長の尾賀真城氏が、DX推進の意思表明となる「全社DX人財化」というメッセージをグループ内に発信し、DXに言及した形となっている。
サッポロホールディングス DX・IT統括本部 DX企画部 部長 梅原修一氏
それを踏まえて同年3月にDX部門が、(1)お客さま接点を拡大:お客さまとつながり、理解を深め、寄り添うこと、(2)既存・新規ビジネスを拡大:お客さま起点で考え抜かれた新たな価値の創造と、稼ぐ力を増強すること、(3)働き方の変革:自分たちの仕事をもっと楽に、もっと楽しく、働くことに誇りを持てるものにしていくこと――という「3つのDX方針」と、それを実現するための(1)人財育成・確保、(2)推進組織体制強化、(3)ITテクノロジー環境整備、(4)業務プロセス改革――という「4つのDX環境整備」を制定し、満を持してDX化の取り組みが動き出した形となっている。
DX化に向けた基礎づくりの変遷
3つのDX方針と4つの環境整備
DX推進本部と事業会社の役割分担を明確にして進める
このサッポログループ内のDX方針を策定し、DX戦略を支えている実働部隊が、サッポロHD内に設置された「DX・IT統括本部」である。ただその形に至るまでは、進展状況に合わせて短期間で柔軟に組織の形を変えてきている。
時系列で振り返ると、まずDXに着手した2022年に、サッポロHDの経営会議に属する諮問委員会として、「グループDX・IT委員会」を発足。その傘下に、DX戦略をグループ内で共有し調整する「戦略分科会」、グループ全体でのDX予算の最適化を検討する「予算分科会」、DX人財の育成活用を考える「人財育成分科会」という3つの分科会が設置された。
そこでの考え方としては、「全体にガバナンスを効かせていきたいという部分もあるが、基本的にDXを進めるのはホールディングスではなく、事業会社という位置付けにしている。その上でDX・IT委員会は、各社が進めでいくDXの後方支援と、DXがしっかりとできているかモニタリングをする」(サッポロHD DX・IT統括本部 DX企画部 部長 梅原修一氏)というもので、最初にホールディングス=DX支援・調整、事業会社=実行という役割を明確にした上で動き出した形となっている。
グループDX推進体制(中核部分)